上り坂が上り調子を支える。ソールオリエンスをはじめ、昨年の牝馬2冠馬スターズオンアース、菊花賞馬アスクビクターモアなど、社台ファーム生産馬の活躍が目を引く。「ライジングサン ソール無敗2冠へ」第4回は、その一因となった外厩施設・山元トレーニングセンター(トレセン)の坂路改修を取り上げる。上水司場長(49)に変化を聞いた。【取材・構成=桑原幹久】

進化が結果につながった。15、19年の北海道・社台ファームに続き、20年に坂路を改修。全長を750メートルから900メートル、高低差を27メートルから33メートル、馬場はポリトラックからウッドチップに替わり、より負荷のかかる調教が可能となった。上水場長は「それだけではないですし要素の1つ」と前置きした上で「以前とメニューが同じでも必然的に負荷はかかりますね」と話す。社台ファーム生産馬は20、21年とG1未勝利も昨年3勝、今年もすでに2勝(皐月賞、NHKマイルC)。着実に変化が表れている。

怪物も新装坂路で違いを見せた。ソールオリエンスはゲート試験で美浦トレセンへ向かう前の経由地として、昨年8月に同トレセン入り。上水場長は「坂路でもこちらの想像以上に時計が出ましたね。見た目に進み具合が違いますし現場も『これはすごいかも』と反応が違いました」と振り返る。

無理はしなかった。2歳春頃は馬体重が440キロ台。牡馬としては大きくなく、6月から新馬戦が行われる昨今ではゆったりと成長を促す過程を選択。夏頃には460キロ台と思惑通りに増えた。「週50~60頭入れ替わる分、蓄積された経験がありますし、スタッフの主体性を尊重しています」。目の覚める豪脚で3戦無敗の皐月賞馬に。人間の思いに結果で応えてくれた。

前走後は同トレセンに戻り、2週間滞在。自身が撮影した帰厩直後の動画を見ながら、上水場長は「G1を勝った後とは思えないような優しい顔をしてましたね。毛づやも落ちていないですし、2週間を過ごしてくれました」とうなずく。社台ファームは来年、栗東トレセンに近い三重・鈴鹿市にトレーニングセンターを開設予定。「大きなところを勝つと盛り上がりますね。山元だけよくなってもこの成績は出ないですし、競馬に終わりはないので、立ち止まったら終わりだと思います」。進化は止まらない。

◆山元トレーニングセンター 宮城県山元町に1992年(平4)開設。主に社台ファーム、追分ファーム生産馬の育成、調教を行う。面積43ヘクタール、東京ドーム約9個分の土地に約300頭(追分ファームを含める)を収容可能。主な施設は屋外1100メートルの周回コース、屋根付きウオーキングマシン20基、トレッドミル7基など。アグネスフライト、ネオユニヴァース、エイシンフラッシュと3頭のダービー馬を輩出。上水場長はサンデーサイレンス初年度産駒のフジキセキなどを調教していた。