彼らしい強い競馬を見せてくれれば-。数々のドラマを生んできたグランプリ有馬記念(G1、芝2500メートル、24日=中山)の追い切りが20日、東西トレセンで行われた。今回がラストランで、レース後には引退式を控えるG1・3勝馬タイトルホルダー(牡5)を送り出す栗田徹師(45)が、その思いを独占手記でつづった。有馬記念はきょう21日、枠順抽選会が行われる。
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タイトルホルダーと初めて会ったのは18年のセレクトセール(当歳部門)でした。山田弘オーナーが落札されて、父(義父の博憲元調教師、エリザベス女王杯覇者タレンティドガール、安田記念連覇&天皇賞・秋制覇のヤマニンゼファー、皐月賞馬イスラボニータなどを管理)が定年直前だったため、私の厩舎へ。お母さんのメーヴェは助手時代に厩舎にいた馬ですし、縁のある馬を預けていただき、感慨深かったことを覚えています。デビュー前に2歳上のお姉さん、メロディーレーンがJRA最少体重優勝を記録する活躍をしていましたが、弟は馬格に恵まれ、脚が長く、柔らかい筋肉の持ち主で、とても賢い印象の馬。「タイトルホルダー」という素晴らしい名前を付けていただき、身が引き締まる思いでした。
2歳時は東スポ杯2歳S、ホープフルSを惜敗しましたが、クロス鼻革を着用した3歳初戦の弥生賞を逃げ切って重賞初制覇。クラシックを走り抜き、菊花賞では厩舎にJRAのG1初制覇をもたらしてくれました。昨年は天皇賞・春、宝塚記念を圧勝してくれて、喜びを分かち合うことができました。フランスの凱旋門賞という舞台は多くの人の夢を乗せて走ってくれました。
彼には調教師としてかけがえのない経験をさせてもらいました。昨年は宝塚記念と有馬記念でファン投票1位、JRA賞(最優秀4歳以上牡馬)に選んでいただき、今年は多くの支持をいただいた天皇賞・春で競走中止(右前肢ハ行の診断)。多くの方にご心配をおかけしました。彼が競走馬として復帰できるのかを含め、オーナーや牧場の方々と一緒に、慎重に状態を見極めながら進めてきましたが、彼は帰ってきてくれました。オールカマー→ジャパンC→有馬記念のローテはあくまで理想で、レースありきではなく、彼に寄り添うことを第一に日々取り組んできました。
この秋2戦、勝つことはできていませんが、彼らしさを取り戻しながら、体調は上がってきたと思います。ラストだから思い切ってやる、というのではありません。1戦1戦、そのときのベストを尽くしてきて、ラストランの有馬記念を迎えることができました。あとは自分たちのやってきたことを信じて、ラストランへ向けて悔いのないようにやっていきたい。菊花賞や昨年の天皇賞・春、宝塚記念のようなタイトルホルダーらしい強い競馬を彼が見せてくれれば。その思いでいっぱいです。
有馬記念は3年連続の挑戦です。結果は出ていませんが、日経賞を連覇しているように決して苦手なコースではありません。一昨年は大外枠、昨年は13番枠。オーナーからは「徐々に内になってきているから」と。今年の枠順抽選は私が責任を持って、自信を持って引きたいと思っています。
多くのファンの方が心のこもったお手紙やお守りを厩舎へ送ってくださって、厩舎のインスタグラムにもいつも温かいメッセージをいただいています。馬は感受性の高い動物です。私自身は感情の起伏が出ないように努めていますが、タイトルホルダーは皆さんの応援する気持ちを感じ取って、それに応えてくれると思います。現役最後のレースになる有馬、素晴らしいライバルたちを相手に、彼らしいレースをできるように、無事に走って帰ってきてくれるように、私も最後までベストを尽くしていきます。(JRA調教師)
★最終追い切り馬なり先着 タイトルホルダーの最終追い切りは横山和騎手を背に美浦ウッドコースでホウオウルーレット(古馬オープン)と併せた。6馬身追走し、コーナーで内から馬体を併せると、最後は馬なりで1馬身先着。5ハロン64秒6-ラスト11秒6をマークした。栗田師は「最大のポイントは騎手に感触をつかんでもらうことでした。欲を言えばストライドが広がってくれればと思いますが、時計的にもこの馬なりに走れて、いい調教ができたと思います」と評価した。
◆有馬記念当日に引退式を行った馬 過去に9頭が実施し4頭が優勝している。最初のケースとなった03年はシンボリクリスエスが連覇を達成。06年はディープインパクトが前年2着の雪辱を果たし、G1・7勝目を挙げた。13年オルフェーヴルは2着ウインバリアシオンに8馬身差の圧勝。14年ジェンティルドンナは中山が初めてということもあり4番人気に甘んじたが、きっちりと最後を締めた。
◆栗田徹(くりた・とおる)1978年(昭53)3月16日生まれ、千葉県出身。日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)を卒業。02年に競馬学校厩務員課程に入学。11年に開業し、これまでにJRA通算250勝。代表的な管理馬に20、21年南部杯連覇のアルクトス、20年ファルコンS覇者シャインガーネットなど。厩舎の公式インスタグラムはフォロワー数が2万人を超え、管理馬の愛らしい写真が投稿されている。