600キロも走れば、当然のことながら平地だけでなく山の中を進むことになる。それも梅雨入り直後の2日間。どこかで雨が降るに決まっている。それが北軽井沢から小梅の約50キロだった。実は個人的なツーリングで10年前の7月に走った時もこの区間は雨。あ〜ぁ、北軽井沢は今日も雨だったよ。


JR最高標高1345メートルの野辺山駅入り口
JR最高標高1345メートルの野辺山駅入り口

【コース】東京都稲城市〜高崎〜長野原〜軽井沢〜野辺山〜石和〜興津〜修善寺〜冷川峠〜伊東〜東京都稲城市


あおば600キロ冷川峠のコース
あおば600キロ冷川峠のコース

 でんめおやじことメディア戦略本部石井政己(58)が、6月10日に行われた「BRM610あおば600km冷川峠」に参加した。コースは東京・稲城市の大丸公園を出発し高崎までほぼ平たんなコースを北上。渋川からは国道353号、145号(日本ロマンチック街道)で西へ向かい、岩島から県道375号で吾妻渓谷を越え長野原へ。そして羽根尾から北軽井沢へ向かって上り、中軽井沢へと下る。さらに南下して下り、佐久から国道141号を標高1300メートルを超える野辺山へと上る。韮崎へ下った後は石和で折り返し、富士川沿いをひたすら南下。稲子からは富士見峠を経由し、駿河湾の見える興津へ出る。ここからは東海道を東へ向かい沼津・三園橋から伊豆半島へ入る。修善寺からは冷川峠で伊豆を横断し、伊東へ。この後は熱海、小田原を通って稲城まで帰るというものだ。ふぅ…、600キロのコースは説明するだけで疲れるね。


 今年は1月200キロ、2月200キロ、3月200キロ、4月300キロと、月イチブルベを順調にこなしてきたが、5月に予定していたBRM513東京600浜名湖鰻は天気予報に負けて無念のDNS。ところが、当日の朝は雨はやんでおり「あれ、走れた?」と悔やんだが、予報通りお昼前後から本降りの雨が夕方近くまで続き、行かなくて良かったと胸をなで下ろした。200キロなら雨でも走れるが、600キロをびしょ濡れで走るとなるとやはり厳しい。


 さて、今回の天気予報はというと、1週間前には土曜日に小さな傘マークがポツリ。これまでの例からすると日が経つにつれ悪化するのが常。まさに暗雲が漂ってきたが、予想に反して予報は好転し、傘マークは消えた。しかし、関東甲信越地方はブルベ3日前の7日に梅雨入り。いつ雨が降ってもおかしくない状況になったが、土日はいきなり梅雨の中休みで気温が上がり晴れるという。ただし、土曜は不安定で雷やひょうの心配があるらしい。1時間予報では群馬では午後3〜5時ごろに雨となっていた。もしかしたら降らないかな? 淡い期待を持って走り出すことを決めた。


 半袖ジャージ、レーパンで昼間は走ることにし、気温が下がる夜に備えアームウオーマー、レッグウオーマー、モンベルの超軽量ウインドブレーカー。これに野辺山からのダウンヒル用に指ありグローブ、普通のモンベルのウインドブレーカー。そして雨対策にモンベルのゴアテックス・レインウエア。これらを替えチューブ3本や工具類とともにコントアーマグナム(6リットル)とバックポケットに詰め込んだ。ボトルはダブル。このブルベ用に新しく購入したモンベルのコンパクト輪行袋は残念ながら入るスペースはなかったが、ロードサービス付き(50キロまで無料搬送)の自転車保険に入っているので多少の安心感はあった。


 迎えたブルベ当日はこれ以上のない晴れだった。


好天に恵まれたスタート地点の稲城・大丸公園
好天に恵まれたスタート地点の稲城・大丸公園

 青空が広がる中、午前7時少し前にスタート。大丸公園を出て是政橋で多摩川を渡り、府中街道を北上。西国分寺、瑞穂、飯能、高麗とお馴染みのルートを追い風の中、気持ち良く進んでいく。市街地の走行なのでトレインにならざるを得ないのだが、信号の都合で一時は20人近くにまでふくれあがった時もあった。切ろうにもタイミングがなく、ちょっとひんしゅくだったかな。


 しかし、高麗神社付近で4人のトレインの先頭を走っていたのだが、なぜか下りで全員に抜かれ、ここから単独走となった。距離でいうと約40キロ地点。ブルベを始めた50代前半のころは上りで抜かれても、平たんや下りで置き去りにされることは一度もなかったのだが、ここのところ平たんや下りでも抜かれることが多い。還暦目前となった今、やはり足は衰えてきたのかとちょっぴり落ち込む。


 気温は上がりかなり暑くなってきた。しかし、昨年も同時期に行われたこのブルベの参加者によると、「あの時もとても暑かったんだけど、嬬恋から北軽井沢で土砂降りだった」そうだ。いやな予感がする。


【PC1 70・1キロ セブンイレブン寄居赤浜店】午前10時2分(貯金1時間38分)


 最近参加するブルベはPC間が長い気がする。だいたい50キロ前後が相場なのだが、このところは70キロ以上が多い。でも、それに慣れてなんとなく一気に走っている。この日も最初のPCまでの70キロを一気に走った。ど平たんだし、ボトルもダブルなので休む理由もない。


寄居のPC1到着
寄居のPC1到着

 荒川を花園橋で渡った先にある、PC1のセブンイレブン寄居赤浜店には午前10時2分に到着。貯金は1時間38分とまずまずのペース。ここではおにぎりとアクエリアスを補給し、短時間でリスタート。


「ガリガリ君」の赤木乳業の本庄千本さくら『5S』工場
「ガリガリ君」の赤木乳業の本庄千本さくら『5S』工場

 しばらくすると国道254号沿いの「ガリガリ君」の赤木乳業の本庄千本さくら『5S』工場の前にさしかかる。スタートからは約82キロ。200キロならあと120キロで終わりなのだが、600キロとなるとまだ始まってもいない感じだ。


 藤岡の先で気分よく直進していて右折ポイントに気がつかずミスコースしたが、サイコンで常に区間距離を測っていたので数十メートルで気がつき大けがにはならなかった。いつもならサイコンは総距離表示にして走っているのだが、600キロともなると誤差が大きくなって、中盤ぐらいから区間距離を足しながらの走行となる。だが、終盤ともなると頭ももうろうとしてきて足し算も出来なくなるので、今回は面倒だがキューシートのポイントごとにリセットしていたのだ。


 高崎駅付近で距離は106キロ。時間は5時間ほど。ずっと平たんだったのでグロス時速20キロが維持できている。


 高崎から渋川の先までは三国街道を20キロ以上ひたすら北上する。曲がるポイントもなく、ただまっすぐ市街地を走るのは気分的にはつらい。飽きちゃうね。左折ポイントの鯉沢交差点にたどり着いたときは思わず歓声を上げた。


 スタートから129・5キロ。長尾小学校南交差点を左折して国道353号へ入ると、道は緩やかに上り始める。いよいよブルベ本番という雰囲気が漂ってくる。


JR吾妻線小野上駅前の国道353号
JR吾妻線小野上駅前の国道353号

【PC2 145・2キロ セブンイレブン中之条バイパス店】午後1時49分(貯金2時間51分)


 国道353号でJR吾妻線、吾妻川沿いののどかな風景を見ながら東へ進む。真っ直ぐでも飽きの来ない道を15キロほど走ると、大型電気店など店舗が立ち並ぶ賑やかな中之条の町が見えてくる。


 145・2キロの中之条のPC2には午後1時49分に到着した。貯金は2時間51分と増えているが、この先は厳しい上りが待っているので、次のPCまではこれを維持できるかどうかになるだろう。お昼をだいぶ過ぎたが、ここでは海老グラタンと水分を補給した。


 この先の原町で気温22度という表示があった。曇ると少しひんやりするかなという感じだった。雨は何カ所かでちらりと小雨が降った。サドルバッグには念のためレインカバーをかけたが、気にするほどのものではなく、日差しが届いたり曇ったりといった天気だった。


 中之条から先は国道145号となり「日本ロマンチック街道」となるのだが、走っている時にその標識は1度しか見かけず(それも小さい)、シャッターチャンスを逃した。


国道145号、東吾妻町矢倉付近
国道145号、東吾妻町矢倉付近

 渋川から長野原までは自転車で過去、2度走った。1度目は10年前の7月。自走で国道最高標高2172メートルの渋峠を目指し、神奈川県央の自宅を午後3時ごろ出発。202キロ地点の長野原草津口駅には翌日の午前2時前に到着し、まずは草津温泉へ向けて登坂を開始したのだが、ここで土砂降りの雨。登坂はあきらめ、Uターンして軽井沢を目指すことに計画変更。羽根尾交差点で雨はいったんやんだが、北軽井沢へ上りだした途端にまた雨に降られ、ヘロヘロになって軽井沢駅から午前7時過ぎの新幹線で輪行で帰宅した。この時走った高崎から軽井沢のコースは今回のブルベと同じものだ。


 2度目は3年前の10月。このときは渋川まで140キロ自走してホテルに泊まり、翌朝、渋峠へアタック敢行。草津温泉までは無事に上れたが、天狗山レストハウスから先でまたしても雨。Uターンを余儀なくされ渋峠アタックはお預けとなった。この時の町田〜藤岡間のコースはあおばブルベの天城越え600のコースの一部を拝借していた。


 2度とも雨にたたられた群馬・草津。3度目の正直で晴れてくれるのか。2度あることは3度あるのか。果たして…。


岩島駅前を左折
岩島駅前を左折

 八ツ場ダム建設のため、国道145号は八ツ場バイパスが岩島の先からできているのだが、ブルベではもちろんバイパスは通らず、旧道を走って吾妻峡を通るものだと思っていた。キューシートでもバイパス前を左折ことになっており、どうせ1本道だからと詳しく確認もしていなかった。


 キューシート通りに岩島駅前を左折し県道375号に入ると、気持ちの良さそうな道が目の前に広がった。


気持ちの良さそうな道が広がる
気持ちの良さそうな道が広がる

 道は右に大きくカーブした後、すぐに上り始める。え? もう、上るの?


 少し走ると、右手には「道の駅吾妻峡」。しかし、キューシートは8・5キロ先の林交差点まで直進となっている。あれ、道の駅に行かないのかな。だとすると吾妻峡に行けないぞ。上から見下ろすのかな? と思い、ちょっと右に寄ってみるがあいにく下は見えない。


上り続ける県道375号
上り続ける県道375号

 道は相変わらず上り続け、やがてこう配8%の表示。これを上り切るとトンネルが見えてきた。


こう配8%の先にトンネルが見えてきた
こう配8%の先にトンネルが見えてきた
03年に作られた1769メートルの吾妻峡トンネル
03年に作られた1769メートルの吾妻峡トンネル

 03年に完成されたという吾妻峡トンネル。長い長い1769メートルのトンネルを抜けると、最近建てられたと思われる、綺麗な住宅街が現れた。この風景を見てようやく合点がいった。ここは八ツ場ダム建設に伴い、水没する地域のため新たに建設された代替地だったのだ。交番や郵便局も真新しい建物となっていた。移転した川原湯温泉の姿も見られた。この県道(林・吾妻線)も代替地のために整備された生活道路。どうりで舗装も綺麗で、道も広かったわけだ。そして、町を抜けたところにある橋から右手を見ると、八ツ場ダムの工事現場。橋を渡った先には「八ツ場ふるさと館」があった。


川原湯の新温泉街を抜けると橋がある
川原湯の新温泉街を抜けると橋がある
橋の右手には八ツ場ダム工事現場
橋の右手には八ツ場ダム工事現場
八ツ場ふるさと館
八ツ場ふるさと館

 過去に走ったときは見上げていた八ツ場ダム建設現場も、ここからなら見下ろす感じ。下を走っているときは川原湯温泉はどこへ移転したのかと思っていたが、ここだったんだ。予備知識なしで来てしまったので、驚きを感じながらも勉強になった。このコースを引いた主催者に感謝。吾妻峡経由だと、道は狭いし、最近では工事のトラックが往来している。道は平たんでいいのだが、走りづらいのは確か。吾妻峡の雰囲気は味わえなかったが、上った甲斐がある風景だった。


 八ツ場ふるさと館の前の林交差点を直進。道は下り始め、やがてキューシートにある通り左カーブが現れる(というか直進は工事中で行けない)。ちょうど長野原草津口駅を見下ろしながら裏手を降りてくる感じ。キューシートによると突き当たりの信号のある新須川橋を右折することになるのだが、橋には「新須川橋」と書いてあるのだが信号がない。左手に少し行くと信号がありそうだったので行ってみたが違う信号名だった。やっぱりあそこかなと戻っていると、こっちに向かってくるブルベライダー。やっぱり迷うよね。「距離的にはあそこですよね」と話しながら戻っていたら、前方に3人ほどのブルベライダーの集団を発見し、ひと安心。ただし、ここから大津交差点まではきつい上り。あっという間に引き離され、再びひとり旅。


 PCではない大津交差点のセブンで水分補給で休んでいると、何人かのブルベライダーにパスされた。小野上から八ツ場ふるさと館までは誰にも会わず位置的には後ろの方かと思っていたが、そうでもなかったようだ。


 羽根尾交差点まではいったん下り、いよいよ北軽井沢への20キロの上りが始まる。こう配的にはこのブルベでは一番きついところだ。


羽根尾交差点。北軽井沢まで14キロ。軽井沢まで36キロ
羽根尾交差点。北軽井沢まで14キロ。軽井沢まで36キロ

 10年前に上った時は雨だったが、今日はなんとかもちそうな感じ。


国道146号はここが起点
国道146号はここが起点

 たぶんあと19キロ上るんだよね。


嬬恋への分岐
嬬恋への分岐

 5キロほど上ると、傾斜が緩やかになる。昨年、雨が降ったという嬬恋付近でも雨は落ちず。


北軽井沢
北軽井沢

 北軽井沢から別荘地帯にかけて傾斜がきつくなる。ここが勝負どころ。坂はほぼまっすぐに伸び、きつい坂の先の道が沈んだように見えてひと息つけるように思うが、傾斜が多少緩やかになっているだけで決して楽にはならない。「あそこを越えれば」と思わせる先はやっぱりきつい坂が続いており、心を折らせるような坂が絶え間なく続く。10年前にきたときは雨もあって何度も足付きしたが、今回はデジカメの調子が悪くなって仕方なく1度ストップしたが、なんとか耐えられている。


気温は11度
気温は11度

 気温は11度だが、上っているので寒さは感じない。半袖レーパンで大丈夫だ。


長野県に入る。路面が濡れている
長野県に入る。路面が濡れている

 北軽井沢を過ぎ長野県に入るあたりから路面が濡れてきた。ひと雨きたようだ。ちょうどやんだ後かな。遅かったことが幸いした。タイミングいいぞ。雨に遭わずに済んだと喜んでいたら、ポツポツと雨粒を感じてきた。「えーっ? 降るの?」と恨めしそうに天を見上げたが、自然は容赦しない。あと少しでピークというところでザーーッときた。


 10年前と同じ風景が目の前に現れた。あの時は夜明け、今は午後という時間の違いはあるが、雨が降り続く薄暗い急坂を上っていくという構図は同じだ。天気予報は当たり、このブルベコースは今年も雨。あぁ、軽井沢は今日も雨だったよ。


ピークは本降り。振り返って撮影
ピークは本降り。振り返って撮影

 上りの途中でレインウエアを着るわけにもいかず、びしょ濡れで白糸の滝交差点先のピークへたどり着く。日曜というのに休業しているレストランがあり(閉店かな)、屋根のある軒先にストップ。アームウオーマー、レッグウオーマー、モンベルの超軽量ウインドブレーカー、モンベルのゴアテックス・レインウエアを着込んだ。その最中も次々とブルベライダーがここに吸収され、着替えを始めたが、ほとんどが緑色のレインウエア(つまりモンベル)だった。


これから濡れた路面をダウンヒル
これから濡れた路面をダウンヒル

 気温は10度前後でダウンヒルが寒いかなと思ったが、ここで目いっぱい着込んでしまうと野辺山のダウンヒルが耐えられないと思い、もう1枚持ってきたウインドブレーカーと指ありグローブはサドルバックに入れたままにした。


 雨のダウンヒルが始まった。まず気をつけるのが水たまりに突っ込まないこと。一瞬でシューズが水浸しになってしまう。そう思って慎重に下っていたのだが、やってしまった。靴下まで水がしみてきた。さきほどのピークが195キロ地点なので残りは約400キロ。あと丸1日以上、この状態で過ごすことを考えると嫌気がさしてきた。さらに、上半身はレインウエアを着ているので問題ないが、下半身は下りでスピードが出ているので土砂降り状態。膝下などは水しぶきもかかって悲惨な状態になりつつある。雨装備が半端だったが、レインシューズカバーとレインパンツは容量6リットルのコントアーマグナムには入らなかった。


 群馬県側はまっすぐな坂が多かったが、長野県側はクネクネ道となる。カーブのたびにブレーキシューが減るのが分かるが、ここで転倒するわけにはいかない。急カーブではしっかりブレーキングし、慎重に慎重に下った。そのせいか、指先以外は寒さはほとんど感じなかった。


 ゆっくり下ったこともあり、長い長いダウンヒルだった。この途中で200キロ通過。所要時間は11時間5分とまずまず。


 「このまま雨が降り続けば、終わりかな」。そう思っていたのだが、中軽井沢へ下りきった時には雨は上がった。というか、路面も乾いているし降った様子がない。そうなると、ここでDNFする必要もない。中軽井沢交差点を右折し、国道18号を左折ポイントの追分交差点までの約4キロを走っているうちにウエアも何となく乾いてきた。靴下はダメだったが、我慢できないほどではない。走り続けよう。


 翌日のゴールで聞いたところによると、雨と寒さのため軽井沢でDNFした人が多かったらしい。もう少し後には霧も立ちこめ、かなり厳しい天候となったようだ。もしここで雨が降り続いていたら、自分も同じ運命だっただろう。


 雨が上がったことでモチベーションも上向き。今度は下りを楽しめると、追分交差点を左折して下り始めた途端、また雨が降りだした。最悪だ。乾き始めたレーパンやシューズが再びびしょ濡れとなってきた。


 このあたりから日が暮れてきた。


 この雨は佐久・滑津大橋までの15キロを下り切ってもやまず、国道141号を40キロ先の野辺山へ向かって野沢西交差点から上り始めても降り続けた。「やっぱりDNFかな。ただ、ここでやめるのはしゃくだなぁ。野辺山は上って、下った先の甲府に泊まり、あす自走で帰るかな。笹子トンネルはいやだけど」。そんなことを考え始めた。


 一気に上る気力も失せてきたので、十国峠への分岐となる国道299号の先のセブンイレブンで水分補給しながらひと息いれた。ここから次のPC3までは約9キロ。そしてそこからピークまでは約20キロだ。


 再び上り始めると、ブルベ装備をした自転車乗りが下ってきた。あとで調べて見ると、オダックスランドヌール中部が主催する甲斐600(甲州上州征伐)の参加者だった。清里から国道141号に入り野辺山へ向かうコースとなっており、距離的には小海付近でスタートから約260キロ。こちらは同じ場所で245キロ付近。スタート時間はこちらが2時間遅いのだが、甲斐600は治部坂峠を越えた後、諏訪湖から小淵沢へ行き、長坂から清里を経由して野辺山を上り下ってくる途中で、かなり時間はかかっているようだった。同じブルベの折り返しですれ違うことはあっても、ほかのブルベとすれ違うのは初めて。真っ暗な中を、ライトをいくつも点灯して水しぶきを上げて下ってくる仲間たちと声をかけたりしながら、その姿にパワーをもらった。ちなみに甲斐600は参加58人で完走は31人。実に半分近くがDNFするという厳しいコースだったようだ。


【PC3 245・3キロ セブンイレブン小海豊里店】午後8時33分(貯金2時間47分)


 雨の中を緩やかな坂を上り続け、小海のPC3には午後8時33分に到着。中之条のPC2からちょうど100キロ。軽井沢の上りがあり雨も降りだしたことでこの間は7時間44分もかかっており、貯金も3時間弱とほぼ変わらなかった。


 晩メシに焼きちゃんぽんを補給。イートインがあったので濡れないで済んだ。ほかに2人のブルベライダーが補給していた。1人は雨雲をスマホで確認していたらしく「この先も雨」ということだった。窓から水たまりを見ると雨が降り続いているのが分かった。


 ところが、走り出してみると雨を感じない。やんだ? おぉ! やんでるよ。北軽井沢から降りだした雨は、約50キロ先の小海であがった。時間は約3時間。助かった! これでどこでも寝られるぞ。


 PC3を出てしばらくすると傾斜が緩くなり平たんなところも現れる。これが4キロほど続き、クネクネ道になるときつくなり、ピーク手前はほぼまっすぐなだらだらと上る坂が延々と続く感じだ。まだ半分もきていないが、これを上れば残りのコースに長い上りはなく、ブルベは終わったも同然。逆にいうと、野辺山を上れば、あとは何とかなる。気持ちを切らせないよう、真っ暗な坂を黙々と上っていく。


野辺山駅
野辺山駅

 ようやく標高1375メートルの野辺山駅に午後10時半ごろに到着。距離的にはまだ260キロだが、ヤマ場は越えた感じだ。


 野辺山駅はコース上ではないが、いつも寄り道して自販機前のベンチで着替えをするのがお約束。ちょうど甲斐600の参加者らしき男女がレインウエアに着替え、レジ袋ごとクリートを踏みつけて反対方向へ下って行ったところだった。こちらはウインドブレーカーを新たに着込み、その上にレインウエアを羽織る。レインウエアは通気性がいいので風よけにはならないかもしれないが、気温12度のダウンヒルに備え、あるものは全て着ようという作戦だ。これに指あり手袋をつけ、ウエッティな路面をダウンヒル開始。


 凍えたらどうしようという心配も杞憂に終わった。寒さはほとんど感じないまま須玉まで下り切り、あとは韮崎へ向かっての緩やかな下りをガンガン回しながら気持ちよく走る。韮崎の先あたりが300キロとなるが、時間は16時間48分。上りが集中していたのでこんなものだろう。


 甲府市街に入り道が平坦となったあたりでついに睡魔が襲ってきた。時間は午前0時を回ったぐらいで予想通りの展開だったが、ふっと意識が飛びそうな瞬間もあり、信号待ちで目を閉じたりしてしのいだ。


【PC4 315・1キロ ファミリーマート石和町松本店】午前0時37分(貯金3時間23分)


 やっとのことでPC4にたどり着いた。貯金は3時間以上に増えていた。


 到着した時には1台もロードバイクがなかったが、その後続々とブルベライダーがやってきたものの、買い物をさっさと済ませるとあっという間にほとんどが目の前にある「石和健康ランド」へ消えていった。この後に厳しい上りがないことを考えれば、時間的には2時間ぐらいは休める余裕はありそうだ。しかし、自分の場合、そんな所へ行って風呂でも入ろうものなら朝まで起きないだろう。幸いにして、タルタルフィッシュバーガー、とろけるカフェオレを補給している間に眠気も去ったようだし、走り出すことにした。寝床は身延線のどこかの駅かな。


 笛吹川沿いを走り、鰍沢付近から新割石トンネルで山越えし、峡南橋から富士川と身延線沿いを南下していく、ブルベでお馴染みのルートは好きなコース。特に夜間走行は車もおらず気持ちいい。上沢の「最後の」セブンイレブンで眠気覚ましのガム「メガシャキ」をゲットし、睡魔と戦いながら進む。


 午前4時前に甲斐岩間駅にさしかかった。駅を見ると小さな小屋の待合室があり、ドアも開いていたので自転車ごと入って少し眠ることにした。朝になるとどこでも寝ることができなくなるので、いまのうちと思ったのだ。しかし、明かりを求めて虫が寄ってきてうるさく、眠るどころではなかった。数分間目を閉じていたが、虫が気になって眠ることはできずあきらめた。眠気は常にあったが、もうすぐ明るくなる。そうなれば、これまでの経験から睡魔もおさまってくれる。もう少し頑張ろう。


富士川沿いで夜明け
富士川沿いで夜明け

 午前5時前、静岡県に入り、稲子駅を過ぎたあたりで夜が明けてきた。この時期は夜が短いから助かる。


富士見峠へのアプローチ。遥か上の東名高速まで上る
富士見峠へのアプローチ。遥か上の東名高速まで上る

 昨年の天城越え600では夜だった富士見峠越え。今回は早朝となり、どういう所か確認できたが、2〜3キロの小さな峠かと思っていたら、しっかり6キロぐらいあり、ピーク前もきつくてちゃんとした峠だった。暗いと何だか分からないうちに上れるが、先が見えると精神的にもきつい。今回は東名高速が遥か頭上に見えるし、あそこまで上るのかと思うと凹んだ。峠を越えてからもPCまではすぐだったという記憶があったが、行けども行けども着かず、結局、10キロ以上あった。いい加減な記憶だったようだ。


 この下りの途中で400キロ通過。時間は22時間52分で、2回目の200キロは11時間47分。残り200キロを11時間台で走れば34時間台のゴールとなる。頑張れば過去600キロ最速の33時間42分(09年神奈川ブルベ沼津600)を超えられるかもと、淡い期待がわいてくる。


【PC5 407・1キロ ローソン清水興津中町店】午前6時10分(貯金3時間58分)


 PC5に到着。石和のPC4を出てからは誰ひとりとしてブルベライダーに会わず、ここでようやく先着していた2人の姿を見ることが出来た。約90キロのひとり旅だった。リザルトを確認して分かったのだが、PC4へは完走した33人中17番目と真ん中あたりだったが、ここPC5ではなんと4番目だった。もちろんごぼう抜きしたわけではなく、ほとんどの人が健康ランドなりへ吸収され仮眠を取ったことはいうまでもない。


 とろけるカスタードエクレア、トマトジュースを補給し、防寒のため着ていたものを、アームウオーマーを除いてすべて脱ぎ捨て、シューズもだいぶ乾いたので靴下を買って履き替え、気持ち良くなって出発。しばらくして暑くなったのでアームウオーマーもすぐに脱いだ。


駿河湾
駿河湾

 駿河健康ランドの前を通り過ぎると、海が見えた。昨日の夜は山の中を走っていたことを考えると感慨深いものがある。しかし、海沿いに出た途端に強烈な向かい風。まいったな。


 3キロほど歩道を走り、西倉沢の信号を3分間待って国道1号を渡り、東海道へと入る。ここからが長い。富士川までの約10キロはまだ我慢できるが、富士川橋を渡ってから三園橋まで真っ直ぐ走る23・5キロは変化もなく、富士山も見えず精神的につらい。8キロほど走った後、セブンイレブンで気分転換。午前8時40分ごろに三園橋に到着した。


 伊豆半島に入り、かなり暑くなってきたので伊豆長岡あたりのセブンイレブンでガリガリ君休憩。食べながら、昨日通り過ぎた群馬の赤木乳業の工場を思い出す。


 興津から大仁まではほぼ平たん。そして、修善寺から冷川峠への上りが始まる。


 実は冷川峠はたいしたことはないと思っていた。これまで2度上ったことがあるが、リアのシフトワイヤーが切れインナートップ縛りで上ったときも足付きなしで上れ、2度目も苦労しないで上れていた気がする。しかし、その2回とも国士峠を上った後の話。国士峠の方がきついので冷川峠が楽に思え、なおかつ国士峠で標高を稼いでいるので上る距離も少なかったのだ。今回はちゃんと下から上らなければならないし、さらにここまで460キロほどを走って脚も披露している。そのことをすっかり忘れていた。後で調べると修善寺から冷川峠はまでは約12キロあった。国士峠とセットの時は冷川交差点から上り、そこからだと峠までは約3・5キロしかないので短く感じていたのだろう。


 暑さもあって途中で自販機休憩を1度入れた。ピーク手前では元気いっぱいの若手ブルベライダーに「最後の峠ですね〜」と声をかけられながらさっそうと追い抜かれ、「こんなにきつかったっけ」と何度も首を傾げながらへろへろと上り続け、482キロ地点の冷川峠には午前11時前にようやく到着した。これで峠は終わりだ。


冷川峠
冷川峠

【PC6 489・9キロ セブンイレブン伊東湯川店】午前11時33分(貯金4時間13分)


 伊豆半島を横断し、最後のPCへは午前11時33分に到着。貯金4時間13分で、このまま行くと35時間台のゴールとなる。


 これまでの600キロでは中盤から終盤になると、固形物は食べられず、ゼリー状のものやスポーツドリンクしか補給することができなかった。ひどい時には最後の100キロは水だけで走ったということもあった。昨年の天城600でもそんな状態だったが、今回は冷川峠の下りで腹が減って仕方なかった。こんなことは初めてで、PCでは牛丼弁当をイートインに座ってしっかり食べることができた。600も6度目にしてようやく体が対応したきたか。あるいは年のわりに胃腸が丈夫になったのか。いずれにせよ、今回のブルベは朝昼晩と普通に食べることができた画期的な600ブルベとなった。


 伊東からは1本道。網代、伊豆多賀、熱海、湯河原、小田原と走り、青葉ブルベお約束の真鶴旧道をひと上り。休日とあって車も多く、小田原付近は渋滞気味だったが、ここは何度走っても飽きないコースだ。


 PC6からゴールまでは100キロ以上。一気には走れないので、国道1号を国府新宿で左折した先の約550キロ地点となるセブンイレブンでコーラ&ビッグフランク休憩。時刻は午後2時46分で、ぎりぎり34時間台かなというペース。


 大磯から平塚、伊勢原、厚木と走るコースは個人的なツーリングで小田原方面から帰宅するときの定番コース。中津川を才戸橋で渡った後、右に曲がって10キロ走れば自宅だ。だが、今はブルベなのでキューシート通りに左折する。


 相模川を高田橋で渡った後、最後の急坂を上って相模原に入り、最後の直線の尾根幹へと差し掛かった。行く手の空を見ると、怪しい雲が広がっている。ゴール後、車に自転車を積んでいる時に降られたらイヤだなと思いながら走っていたが、ゴールまであと3キロとなった時、一気にザーーッときた。まさかのゴール寸前の土砂降り。しかし、ここでレインウエアを着るのも面倒なので、サドルバックにレインカバーだけ付けて走り続けた。雨宿りしている自転車乗りがうらやましい。あ〜あ、やっと乾いたのに全身びしょ濡れだ。


 ここで大変なことに気がついた。コンビニのレシートはブルベカードにはさみ、ハンドルに付けているキューシートの入ったジップロックに入れている。軽井沢の雨の時は平気だったのだが、最後にコンビニでストップしキューシートを入れ替えている時、ジップロックが破れてしまったのだ。やばい。レシートが濡れちゃう。読めないと認定されない? でも確認のために開けると、もっと濡れそう。運を天に任せてゴールの大丸公園へ向かった。


【ゴール 600・9キロ 稲城・大丸公園】午後6時5分(貯金4時間55分)


びしょ濡れでゴール
びしょ濡れでゴール
雨の稲城・大丸公園のゴール
雨の稲城・大丸公園のゴール

 せっかく買った靴下まで再びびしょ濡れになってのゴールとなったが、幸いレシートは濡れておらず、無事に完走は認定された。時間は34時間は惜しくも切れず、35時間5分。最後の200キロは市街地走行ということもあって12時間12分かかった。またほとんど睡眠を取っていないので、完走した33人中、6番目のゴールとなった。


 昨年の天城越え600ではヒザ痛、肩痛で終盤は苦しんだが、今回はヒザ痛は出そうで出ず、肩も少し痛くなった程度で済んだ。ケツも100キロごとに「ボルダースポーツ」を塗ったこともあり、少し擦りむけたぐらいでとどまった。


 今年5度目のブルベで、200キロが3回、300キロが1回、600キロが1回となったが、やはり600キロ完走の達成感は半端じゃない。当分、自転車に乗らなくてもいいほどだ。


 10年前に初めて600キロを走った時は手がしびれ、最後は力も入らなくなってシフトチェンジもできない状態になった。ブルベ翌日も箸が持てず困ったものだったが、今回は両手の小指がしびれたが、それ以外は普通の状態で戻ってくることができた。食事も最後までちゃんと食べることができた。数少ない600キロだが、経験することで多少は成長できたのだろうか。ただ、2日後から筋肉痛が出てきて、それが1週間経っても直らないのは年のせいで仕方ない。


 これでSR(Super Randonneur=【シューペル・ランドヌール】仏語、【スーパー・ランドナー】英語)かというと、そうはならない。5月の浜名湖600を雨でDNSしたので400キロが足りないのだ。秋口に400か600を走るかな。今回の反省を生かし、レインウエア一式が入って、ウインドブレーカーも輪行袋も入る容量10リットルのコントアー・マックス・スポーツを新たに購入したことだし、雨も寒さも怖くないぞ。


 ゴール直前に降り出した雨は、しばらくすると上がった。ついていないのやら、ついているのやら…。【メディア戦略本部 石井政己】