ビワイチ(琵琶湖1周)を走りたくて、1000キロを制限時間75時間で走るブルベ(長距離耐久サイクリング)、ランドヌ東京主催の「BRM918東京1000いってこいビワイチ」に参加。9月13日の早朝に琵琶湖を目指して走り出した。


「いってこいビワイチ」のコース
「いってこいビワイチ」のコース

スタート地点は石和健康ランド近くのコンビニ。ブルベではお馴染みの店で、過去の600キロの途中に眠い目をこすりながらやってきた思い出があるが、この日は起きたばかり。午前4時、気温21度の中、元気いっぱいで漕ぎ出した。空を見上げると、中秋の名月から3日後でまだまん丸なお月様が顔を出していた。


13日午前4時2分、スタート地点近くの石和健康ランド
13日午前4時2分、スタート地点近くの石和健康ランド

石和の市街地を裏道で抜け、笛吹川、そして釜無川と合流して名を変えた富士川沿いを南下する。30キロほど走った身延町で夜が明けてきた。波高島からは富士川左岸をJR身延線に沿って走り続ける。


石和から太平洋までの富士川やJR身延線沿いはブルベの定番ルートだ。アップダウンは多少あるが、信号も少なく飽きない風景が続く快適な道。なかでも47キロ付近の身延駅周辺はお気に入り。たぬきや鹿が出そうな山道を抜けたところに突然現れるなまこ壁の町並みはほっとさせる雰囲気がある。駅前通りは日蓮聖人にちなみ「しょうにん通り」と名づけられ、「平成の古都」を目指して和風のイメージに統一されたという。通るたびに身延まんじゅうを食べたいと思っているのだが、だいたいが深夜。この日も午前6時過ぎで店は開いていない。残念。


13日午前5時20分、山梨・身延町の峡南橋で夜明け
13日午前5時20分、山梨・身延町の峡南橋で夜明け
13日午前6時4分、山梨・身延町の身延駅
13日午前6時4分、山梨・身延町の身延駅
13日午前6時4分、山梨・身延町の身延駅周辺
13日午前6時4分、山梨・身延町の身延駅周辺

南部町の上りを越えると静岡との県境。ここまで67キロでスタートからは約3時間が経過しているが、下り基調の道に加え追い風もあってグロス平均時速は23キロ近いハイペース。あっという間に到着した感じだった。


13日午前6時57分、静岡・富士宮市へ入る
13日午前6時57分、静岡・富士宮市へ入る

芝川駅の先で身延線に別れを告げ、富山橋で富士川を渡って右岸をさらに南下すると、左手後方に富士山が見え始めた。富士川橋でストップ。朝のラッシュで混み合う交差点の喧噪をよそに、雄大な姿をしばしの間、見入った。


13日午前7時51分、静岡・富士川橋から望む富士山
13日午前7時51分、静岡・富士川橋から望む富士山

この先はJR東海道線に沿って県道を走り、由比駅の先からは旧東海道へ。道幅は細いが風情のある町並みを抜けていくのは気持ちがいい。


13日午前8時25分、静岡・由比の旧東海道
13日午前8時25分、静岡・由比の旧東海道
13日午前8時25分、静岡・薩埵峠への激坂(右手)
13日午前8時25分、静岡・薩埵峠への激坂(右手)

この道は広重の東海道五十三次「由井」にも描かれ、東海道の難所であった薩埵峠(さったとうげ)へと続くのだが、今回はもちろんそんな所へは行かず、その手前で離脱して国道1号へと向かう。ここはややこしいのだが、ブルベではお馴染みのコース。西倉沢交差点で押しボタンを押し、延々と待って反対車線に渡り、交通量の多い国道は走らず歩道を進む。この歩道は以前はもっと幅が狭く路面も荒れていた気がするのだが、今回は「太平洋岸自転車道」の看板があり、幅も広くなり路面も綺麗になっていた。


13日午前8時27分、国道1号沿いの太平洋岸自転車道を行く
13日午前8時27分、国道1号沿いの太平洋岸自転車道を行く
13日午前8時27分、国道1号沿いの太平洋岸自転車道
13日午前8時27分、国道1号沿いの太平洋岸自転車道

そう。「太平洋岸自転車道」の名の通り、目の前には太平洋が広がっているのだ。石和をスタートして4時間半。約100キロを走り山から海へとたどり着いた。海面に反射する朝日がまぶしい。


13日午前8時34分、静岡・興津付近の太平洋
13日午前8時34分、静岡・興津付近の太平洋
13日午前8時34分、静岡・興津付近の太平洋
13日午前8時34分、静岡・興津付近の太平洋

興津から国道1号に入り、JR清水駅前は直進。定番ならエスパルスドリームプラザの前を通って国道150号に入るのだが、今回は次郎長通りを行く。国道ばかりじゃ面白くない。こういう気晴らしをくれる気遣いが嬉しい。ただ、ここの通過は午前9時前。ノスタルジックな商店街はほぼシャッターが閉まっており、次郎長の生家もどこにあるのか気がつかなかった。火曜日が定休日だったせいもあるかな。


13日午前8時57分、静岡・清水の次郎長通り
13日午前8時57分、静岡・清水の次郎長通り

やがて海岸にぶつかり国道150号で西へ向かう。「いちご海岸通り」ともいうこの道は数十軒のいちご農園がひしめき、いちご狩りを楽しむ季節の週末にはいちご娘が沿道にずらりと並ぶ。その声援を受けながらブルベを走ったこともある。もう14年前のこと。懐かしいね。そういえば「いやにスタイルのいい、顔の小さい娘がいるじゃないか!」と思ったらマネキンだったことも思い出した。もちろん季節外れのこの日は誰もいない。


13日午前9時20分、静岡の国道150号。右手にはいちご農園
13日午前9時20分、静岡の国道150号。右手にはいちご農園

静岡の海岸線を西へ走るときは向かい風が多かったのだが、この日は追い風。国道150号は信号も少なく、路肩も広く走りやすい。だが、そんな幸せも安倍川まで。国道のトンネルが自転車通行不可となっているので用宗からは県道に迂回し、焼津を経由して牧之原付近で再び国道に復帰する。その途中にあるのが大崩海岸。急崖の海岸で、地名の通り崩落が多い。ここもブルべの定番ルートで何度か通ったことがある。もちろん急坂が続く道で、今回のルートでは唯一の峠らしい峠だといえる。結構きつい印象があったのだが、終盤に新しいトンネルができていたせいか、それほどでもなかった。調べて見ると13年10月に路面沈下で全面通行止めとなり、新しく「浜当目トンネル」が貫通したことで開通したらしい。そうか、10年以上ここへ来てなかったのか。


13日午前9時43分、静岡・安倍川
13日午前9時43分、静岡・安倍川
13日午前10時7分、静岡・大崩海岸へ向かう
13日午前10時7分、静岡・大崩海岸へ向かう
13日午前10時9分、静岡・大崩海岸
13日午前10時9分、静岡・大崩海岸
13日午前10時9分、静岡・大崩海岸
13日午前10時9分、静岡・大崩海岸

大井川を渡り国道150号に復帰後は延々と20キロ以上を走り続ける。気がつくと左手に自転車道らしき道が平行して続いていた。以前はなかったような気がする。新たに作られたのだろうか。信号をやり過ごせるので走ってみたい誘惑にかられたが、どこかへ迂回する可能性もありスピードは国道の方が出せるのでそのまま走り続けた。


13日午前11時48分、静岡・牧之原で見かけた太平洋岸自転車道
13日午前11時48分、静岡・牧之原で見かけた太平洋岸自転車道
13日午後0時13分、静岡・御前崎港
13日午後0時13分、静岡・御前崎港
13日午後0時20分、静岡・御前崎
13日午後0時20分、静岡・御前崎
13日午後0時24分、静岡・御前崎岬
13日午後0時24分、静岡・御前崎岬
13日午後0時24分、静岡・御前崎岬。後方は御前崎灯台
13日午後0時24分、静岡・御前崎岬。後方は御前崎灯台

風のない静かな御前崎は初めてだった。東経138度13分36秒、北緯34度35分42秒。静岡県最南端の岬である。石和からは約170キロ。時刻は午後0時半ごろで、スタートからは8時間半が経過していた。グロス平均時速は20キロを超えており、いいペースだ。しばらく海を見つめて再スタート。そして気がつく。あれ? 御前崎のコントロールポイント(PC)って御前崎岬の前じゃなかったっけ? そうだよ、御前崎港のところだ。慌ててUターン。往復5キロ近いロスだ。


御前崎港まで戻り、コンビニで無事にレシートゲット。貯金は3時間弱あった。このペースで行けば豊橋でかなり眠れそうだ。


スタート時点は少し肌寒かったが、日が昇ってからは気温がぐんぐん上がり、清水付近で30度を超え、お昼時の御前崎では35度近くまで達していた。日陰もない海岸線の道は暑さとの勝負で、これがまだまだ続いていく。ガリガリ君で体を冷やしたが、走り出すとすぐに火照ってくる。自販機でクリームソーダを何本買っただろう。


掛川や袋井付近まではブルベで走ったことがあった。だが、磐田から先は未知の世界。天竜川を渡るのも初めてだ。土地勘もなくどこを走っているのかも分からない。もうすぐ浜名湖のはずと思って走っていると、「砂丘」という文字が見えてきた。こんな所に砂丘? でも道沿いには防砂林か防風林があって景色はまったく見えない。その防砂林も高さが微妙で日陰になるほどでもない。暑さはピークとなっており、この日で一番つらい区間だった。


13日午後2時29分、静岡・磐田。豊橋まであと49キロ
13日午後2時29分、静岡・磐田。豊橋まであと49キロ
13日午後2時42分、静岡・天竜川を渡る
13日午後2時42分、静岡・天竜川を渡る

砂丘は中田島砂丘といい、日本三大砂丘のひとつで天竜川によって運ばれた砂で東西4キロにわたって形成。遠州灘のからっ風で芸術的な風紋が描かれ、映画のロケなどにも使われる絶景スポットだという。走る前にコース上の見どころなど一応予習するのだが、なかなかイメージが湧かない。実際に行ってみて「おぉ!」と驚き、帰宅後調べて「もっとちゃんと見れば良かった」などと反省するケースがほとんど。だが、この砂丘はたとえ知っていても行かなかっただろうね。干からびちゃうよ。


灼熱の砂丘沿い区間が終わると、ようやく浜名湖が見えてきた。といっても出てきたところが舞阪宿付近で、目の前にあるのは南浜名湖。弁天島の赤鳥居を望むことはできたが、北に大きく広がる湖はJR東海道線などに阻まれて目にすることはできなかった。期待していただけに残念。


13日午後3時32分、静岡・浜名湖。奥に見えるのが弁天島の赤鳥居
13日午後3時32分、静岡・浜名湖。奥に見えるのが弁天島の赤鳥居
13日午後3時32分、静岡・舞阪宿
13日午後3時32分、静岡・舞阪宿

その先にある新居関所は懐かしかった。10年前に先立った妻がまだ元気だったころ、浜名湖1周の自転車イベントに一緒に参加した。その最終チェックポイントだったのがこの新居関所。その時はもちろん浜名湖まで車で来て、1周約70キロのコースを走っただけだった。今回は石和温泉から240キロ走ってここまでやって来て、さらに琵琶湖まで行く。きっと天国であきれてるだろうね。


13日午後3時55分、静岡・新居関所
13日午後3時55分、静岡・新居関所

浜名湖を過ぎると豊橋まではあと20キロ。だが、市街地に入ったことで信号も車の量も増えてきた。急坂を上りながら「県境はどこだろう? 坂のことが多いしこのあたりか」と思ったが、そうでもないらしい。住居表示には県名や市名はないので自分がどこにいるかも分からず、サイコンのナビに従って走るだけだ。すると突然、豊橋○○店という文字があちこちに出てきた。大きな道標もないまま、いつの間にか愛知県に入っていたようだ。国道じゃなかったからかな。感動が薄れるなぁ。


13日午後5時12分、愛知・豊橋到着
13日午後5時12分、愛知・豊橋到着

豊橋のホテルには午後5時半ごろ到着した。260キロを13時間半。グロス平均時速は19・2キロ。終盤で疲れと信号峠でペースはダウンしたが、それでも予定よりは2時間ほど早い。4時間の滞在予定だったが6時間、いやもっといてもいいかなと思いながらシャワーを浴び、眠りについた。(この項続く)【石井政己】