5月末にミネソタ州ミネアポリスで起きた黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警察官に殺害された事件を受け、全米各地で「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」を訴える抗議デモが拡大する中、ロサンゼルス(LA)南部の日本人が多く住むトーランス市ではアジア系を対象とした憎悪犯罪(ヘイトクライム)が相次いでいます。トーランスは空港から南に15分ほどの場所にあり、200社以上の日系企業が集まっていることから駐在員家族ら日本人が多く住むことで知られ、日系スーパーマーケットや日本食レストランも多いためLA在住の日本人には馴染みの場所です。

外出自粛命令が出された直後と暴動直後には銃の売り上げが急増。店の入り口にゴミのコンテナを置いてガードしながら営業を続ける銃専門店も
外出自粛命令が出された直後と暴動直後には銃の売り上げが急増。店の入り口にゴミのコンテナを置いてガードしながら営業を続ける銃専門店も

人口の約3分の1がアジア系と言われるトーランスで、最初に憎悪犯罪が起きたのは今月10日のこと。市民の憩いの場として知られる公園で運動していたアジア系女性が「ここはあなたの来るべき場所じゃない。ここはあなたの住むべき場所ではない。私たちはあなたにここにいて欲しくない。どこでもいいからあなたが属するアジアの国に帰れ」と白人の中年女性から汚い言葉を浴びせられる動画がSNSで拡散され、地元テレビのニュース番組でも報じられる騒動となりました。加害者女性は同じ日に11歳の息子を連れた別のアジア系アメリカ人男性にも暴言を吐いていたことが発覚。その後も複数のアジア人が被害に遭ったと名乗りをあげ、常習的に人種差別発言を繰り返していたことが明らかになり、警察が女性の行方を探して捜査に乗り出したと報じられました。

「私たちは皆同じ星のもとに生まれた」と平和を訴えるブラック・ライブズ・マターの壁画も
「私たちは皆同じ星のもとに生まれた」と平和を訴えるブラック・ライブズ・マターの壁画も
街中には殺害されたジョージ・フロイドさんの壁画もたくさん登場しています
街中には殺害されたジョージ・フロイドさんの壁画もたくさん登場しています

そしてその数日後、今度は同じトーランス市にある包丁や土鍋など日本の伝統的な調理器具を販売する日本人が経営する店の店頭に、「日本に帰らなければ、店を爆発する」と書かれた脅迫状が貼られる事件が起きたのです。NBCテレビの報道によると、タイプされた長文の脅迫文には「ここはアメリカだ。おまえたちが売っている伝統的なくだらない物は何もいらない。出て行って欲しい。言うことを聞かないと店を爆発する。どこに住んでいるか分かっている。自分の居場所に帰れ。日本に帰れ。このサル野郎が…」と、かなり酷い言葉が並んでいます。文面から察するに大人の英語がネイティブなアメリカ人が書いた文章ではないのではないかという声も上がっているようですが、LAの日本人たちの間では「まさか日本人がターゲットにされるなんて」と動揺が広がっています。すでにトーランス市警察は憎悪犯罪として捜査を始めていますが、NBCテレビのインタビューに応じた店主は「アメリカに移住して以来最悪の人種差別」とショックを隠し切れずにいるようです。

日本人経営の店に送られた脅迫状のニュースを伝えるNBCテレビの画面
日本人経営の店に送られた脅迫状のニュースを伝えるNBCテレビの画面
暴動に備えて店の窓ガラスを覆う防護板に漢字で「愛」と書かれたメッセージも
暴動に備えて店の窓ガラスを覆う防護板に漢字で「愛」と書かれたメッセージも

ブラック・ライブズ・マター運動が起きて以降、LAのコリアタウンでも在米韓国人が黒人から暴行される事件が起きており、アジア系を標的にした憎悪犯罪が各地で多発しています。その一因として選挙を控えたトランプ大統領がコロナ禍で感染者が増え続ける中、「中国ウイルス」と発言するなど中国をパンデミックのスケープゴートにする戦術があると指摘されています。ロサンゼルス・タイムズ紙によると新型コロナウイルス感染が拡大して以降、アジア系を標的にした憎悪犯罪が急増しており、LA市警察には2月から4月にかけて100件以上の被害が報告されているといいます。そんなコロナ禍で起きた人種差別抗議運動が発端となり、それに反発する人たちが黒人のみならずアジア人を含むマイノリティーにも憎悪の対象を向けているのかもしれません。人種差別を巡る対立や緊張感は今後もしばらく続きそうです。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)