アメリカでは毎年11月第4週目の木曜日は「サンクスギビングデー(感謝祭)」で、家族が集まってターキーを食べながら過ごすクリスマスに次ぐ重要なホリデーとして知られています。そして、感謝祭が終わるとクリスマスに向けて、小売業界が一年でもっとも稼ぎ時となるクリスマス商戦が本格的にスタートします。

コーチもブラックフライデーには半額セールを行っていました
コーチもブラックフライデーには半額セールを行っていました

その口火を切るのが、感謝祭の翌日の一大セール日「ブラックフライデー」です。最近は日本でもこの言葉が使われるようになってきたので知っている方も多いと思いますが、アメリカではショッピングモールやアウトレット、大型量販店などに目玉商品を求めて前日の深夜から買い物に出かける一大イベントと化しています。

コロナ禍の今年は、例年のような混雑ぶりはなりを潜め、ここロサンゼルス(LA)では駐車場の争奪戦や会計待ちの長蛇の列も少なく、「こんなブラックフライデーは人生初めての経験」という声があちらこちらから聞こえてきました。

それでもメディアを通じて見る限り、多くの人が恒例行事として今年もブラックフライデーを楽しんでいたようです。

今年のブラックフライデーはマスク着用でソーシャルディスタンスを守って安全にが合言葉となっていました
今年のブラックフライデーはマスク着用でソーシャルディスタンスを守って安全にが合言葉となっていました

そんなブラックフライデーが終わった後の月曜日は、今度はオンラインショッピング上の一大セール「サイバーマンデー」がやってきます。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないアメリカでは、多くの都市で不要不急の外出自粛が求められており、感染予防の観点からも、混雑するブラックフライデーの買い物を避ける傾向が強く、今年は「サイバーマンデー」で買い物をする人が過去最高水準に達すると予想されています。もともとは、インターネットの発達とともに感謝祭の4連休を終えて自宅や職場に戻った人たちが、月曜日にオンラインでショッピングするようになり、感謝祭後の月曜日のオンラインショッピングの売り上げが急増したことから、2005年から「サイバーマンデー」の名が使われるようになったといわれています。テレビやコンピューターなど家電からゲーム機や玩具、キッチン用品や携帯電話まで、各社お得なディールを用意しており、今年はアクセスが困難になったり、人気商品の争奪戦も続出することが見込まれています。

例年に比べてかなり人出が少ないダウンタウンの宝石店街
例年に比べてかなり人出が少ないダウンタウンの宝石店街

そして、そんなブラックフライデーとサイバーマンデーに挟まれた土曜日は、大手企業に押されて経営が苦しい小売店を支える「スモール・ビジネス・サタデー」という日になっています。大手チェーン店やブランド店で買い物をした翌日は、今度は地元の個人商店で買い物をして小規模な事業を支援しようというもので、クレジットカード会社アメリカン・エキスプレスが2010年に行ったキャンペーンが始まりです。

個人事業者を支援するスモール・ビジネス・サタデーは年々盛り上がりを見せています
個人事業者を支援するスモール・ビジネス・サタデーは年々盛り上がりを見せています

年々認知度も上がっており、10年が経った今では、土曜日はゆっくりと地元や自宅近隣の店を巡って個人経営の店でコーヒーやアイスクリーム、パンなどを買ったり、ブランチをしたり、小さな書店や玩具店、衣料品店などで買い物を楽しんだりするのが主な過ごし方として知られています。今年は特に、パンデミックで多くの小売店が3月中旬から閉鎖を余儀なくされ、ビジネス再開後も入店人数の制限や、買い物客の減少などで経営難に苦しむ店が多いだけに、ローカルビジネスを支えようという呼びかけが各地で広がっています。

そして近年は、消費するだけでなく、その後は感謝の気持ちを込めて寄付をしようという動きも活発化しています。ブラックフライデー、スモール・ビジネス・サタデー、サイバーマンデーが終わった火曜日は、「ギビング・チュースデー」と呼ばれる寄付の日がやってきます。ギビング・チュースデーは、ニューヨークの非営利団体92Yと国連基金が12年から始めた運動で、消費欲を満たした後は恵まれない人々や助けを必要とする人たちに寄付をしたり、慈善活動をする日になっています。

コロナ禍の今年は、失業して食べるものに困ったり、住む場所を失ったりしている人も多いことから、貧困に苦しむ人たちに食料品を配給するフードバンクや、増え続けるホームレスを支援する団体などへの寄付が推奨されているほか、コロナ禍で急増しているといわれる家庭内暴力(DV)被害者や、メンタルヘルス問題を抱える人たちを支援する団体、医療関係者ら最前線で働く人たちを、感染から守るための個人防護具を提供する団体などへの寄付も呼びかけられています。

フードバンクへの寄付を呼びかける広告
フードバンクへの寄付を呼びかける広告

また、気候変動の加速で山火事が多発しているカリフォルニアでは火災の被害者支援や地球温暖化防止活動への寄付をする人も多いほか、世界中に広がったブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)を発端とする人種差別問題に取り組む団体などへの寄付も注目されています。報道によると、今年は金銭の寄付ではなく、食料品や生活必需品など物品の寄付や、経済的な問題などからクリスマスプレゼントを買ってもらえない子供たちに玩具を贈る団体の活動に参加する人も多いようです。また、金銭的な余裕がない人たちの中にもボランティア活動に参加したいと考えている人が増えており、幅広い世代の人が何かしらの形で社会貢献をする日として年々認知度があがっています。

アマゾンやフェイスブック、グーグルなど大企業もこの取り組みに参加しており、例えばフェイスブックを通じて様々な団体に寄付することができるだけでなく、700万ドルを上限に、この日1日のユーザーの寄付金と同額をフェイスブックが対象団体に寄付するという取り組みも行われています。また、アマゾンではアレクサを利用してクリスマスプレゼントの玩具を、団体が用意しているリストの中から選ぶことができ、注文した商品はアマゾンから直接その団体に配送されるという便利なシステムも導入されています。

コロナ禍で感謝祭の過ごし方が大きく変化した今年は、助けを求めている人たちにできる範囲で支援の手を差し伸べる優しさと心のゆとりが例年以上に必要とされているようです。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)