放送開始から30年以上続く日本テレビの長寿番組「はじめてのおつかい」が、3月下旬からネットフリックスで配信され、「幼い子供を1人でおつかいさせるのはありか、なしか」賛否両論が巻き起こっています。英語タイトルは、「Old Enough」。直訳すると「〇〇できる年齢」で、おつかいするには十分に大きいという意味が込められています。しかし、3歳児未満の幼児が1人でおつかいに出かけるという設定はアメリカでは考えられないことで、一歩間違えると虐待が疑われる可能性もあり、配信開始直後から「こんな小さな子を1人でおつかいに行かせるなんて危険だ」との意見が噴出。一方で、「幼児が1人で出歩ける日本はなんて安全な国なんだろう」と羨望の眼差しを向ける人もおり、日本の治安やインフラ整備など環境面の良さ、日米の子育てスタイルや文化の違いを指摘する人もいます。また、アメリカでは子供を過剰に守りすぎだという意見も出るなど、子供の独立心を育てるために冒険をさせるべきか否かといった子育て論争にまで発展しています。

「Old Enough!(はじめてのおつかい)」について伝えるNBCテレビの朝の情報番組Todayの画面より
「Old Enough!(はじめてのおつかい)」について伝えるNBCテレビの朝の情報番組Todayの画面より

ニューヨーク・タイムズ紙は「幼児が1人で道を渡れる?イエス、日本のリアリティーショーでは」のタイトルをつけて報じているように、日本では人生初のおつかいに奮闘する子供たちを微笑ましく見守る視聴者が多い一方、初めて見たアメリカの視聴者、とりわけ同年代の子供を持つ親にとっては幼児が1人で出歩くことに衝撃を受けています。テレビ番組として単純に子供が奮闘する姿を「かわいい」「こんな面白い番組見たことない」と楽しんでいる視聴者もいますが、こと自分の子供にさせられるかとなると、店の前まで一緒に行って中で買い物する様子が見える環境なら許すがそうでなければできないと話す人も多くいます。

アメリカでは州によって定義や罰則は異なるものの12歳未満の子供を1人にさせないことが一般的で、おつかいどころか子供だけで留守番さえさせない家庭が大多数です。ここカリフォルニア州では「〇歳未満の子供を1人で歩かせてはいけない」という法律はなく、子供を1人で留守番させることも違法ではありませんが、おそらく番組に登場する年齢の子供がふらふらと1人で街中を歩いていたら保護が必要だと感じた人によって通報されるでしょう。明確な法律はないとは言え、例えば留守番中に何かのトラブルが起きた場合は育児放棄や虐待で通報され、最悪親権をはく奪されたり、刑事罰を受ける可能性もあります。笑えない話ですが、日本から観光に来た親子がホテルの部屋で子供を寝かしつけた後に外出して戻ってきたら泣き声で通報され、逮捕されたというような話も耳にします。そうしたことから、アメリカでは子供を置いて外出する際はベビーシッターを雇い、小学生の登下校も大人による送迎が一般的となっています。

ニューヨーク・タイムズ紙でも取り上げられるなど子供のおつかいを巡って深い論議が起きています
ニューヨーク・タイムズ紙でも取り上げられるなど子供のおつかいを巡って深い論議が起きています

番組を見た人からは「日本は安全な国だからできる」という反応が多く、それが最も的を射た意見でもあると思います。アメリカは第一に銃社会であること、また性犯罪や誘拐などの事件に巻き込まれる可能性が日本よりずっと高いことなどがあげられます。身代金や性的犯罪を目的にした誘拐だけでなく、別れた元配偶者が子供を連れ去るといった事件も多いことから子供を1人にさせることに抵抗があり、事件や事故に巻き込まれるのではないかと常に心配しているのです。また、インフラの面でも例えば車社会のロサンゼルスなど大都市では歩いている人は少なく、交通量が多いうえに法的規制速度も異なることから幼い子供には危険が多いというのも一理あります。ローカルニュース番組のキャスターが、「交通量の多い道を子供が1人で渡るなんて怖くて自分の子供にはさせられない」と話していましたが、子供を1人にさせるのは親として無責任だと感じる人が多いように思います。

CBSニュースは、「日本のように番組が成功するかどうかは分からないが、リスキーな冒険は一部の人にとってはスリルがあるが、別の人にとっては恐ろしいものに感じるでしょう」と伝え、別の番組では「常に大人がそばにいて守りすぎるのは子供にとってストレスになる」とおつかいに賛成する意見も伝えています。視聴者からも幼児の独立を成長の重要な過程であると考える日本の子育て文化が反映している、日本では子供をより信頼しているといった意見や子供の自立や達成感について学ぶ機会になったという声もあり、「バブル」のように子供を過剰に守ることの是非を問うきっかけにもなっています。

異国の番組として子供の純粋さや可愛さに魅了されることはあっても、アメリカ版を制作するのは難しいという声も多く聞かれますが、「自分が子供の頃はおつかいしていたよ」と話す年配者や「田舎と都会では違うのでは」と言った意見もあり、これほどまでに盛り上がったことを考えるとアメリカ版が作られる可能性もあるかもしれません。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)