レールはないとはいえ、モノレールも立派な鉄道だ。法律でも鉄道事業者として認められている。それに対しロープーウエーは鉄道の範ちゅうに入らないとの認識が一般的だ。ではロープーウエーのようなモノレールは? とクイズのようになってしまったが、広島県のスカイレールサービスは、まさにそんな「鉄道」。天空の住宅街へと運んでくれるゴンドラ。元々は違う目的で訪れた瀬野駅(山陽本線)から伸びる「空路」にちょっと興奮してしまった。(訪問は今年2月)



瀬野駅の北口で降りると、ちょうどゴンドラが旅立つところだった。はるかかなたまで伸びていく“線路”を軽快に昇っていく。思わず見とれてしまった。


みどり口駅を出発するスカイレール
みどり口駅を出発するスカイレール

広島市安芸区の「スカイレールみどり坂線」。ロープウエーと同様のゴンドラによる新交通システムだ。ただしロープではなく、懸垂式モノレールと同じ形態なので、立派な鉄道。だからゴンドラではなく車両となる。


昇っていくゴンドラ
昇っていくゴンドラ

瀬野駅に隣接する、みどり口駅とみどり中央駅を結ぶ路線は1キロちょっと。途中にみどり中街駅があり、全部で3駅、5分で到着となると「そんなの歩いてもいいんじゃないか」と感じてしまうかもしれない。かくいう私もそうだった。小高いところへ運んでくれることは分かっていたので「だったら帰り(下り)は歩くか」なんて思っていたぐらいだ。しかし50代も半ばのオッサンには全く無理だということが、よーく分かった。


コード付き乗車券
コード付き乗車券

料金は一律170円。券売機でコード付きの乗車券を購入して改札機にかざし入場する。飛行機に乗るかのようだ。そしてゴンドラもまるで空に向かっていくかのように上昇していく。


みどり中央駅
みどり中央駅

乗車した日は平日のお昼過ぎというのに試験期間だったのだろうか、25人定員の車両に十数人が乗車し、かなり混雑していた。となると景色が見られないので、やや不満である。しかし戻ってくる時は私を含めてわずか3人。これはたっぷり景色を楽しめた。雄大ともいえる前方そして下方の景色が良かった。


スカイレール下りの眺望
スカイレール下りの眺望

私が無知だっただけだが、事前の予想との違いに、正直興奮してしまった。開業して20年が経つ。存在は知っていたが、前述した通り、これほどの急勾配だとは思っていなかったので訪問の機会がなかったのだ。うーん、なぜ来なかったのだろう。あまりにも楽しくなって、次の車両は比較的お客さんが少ないことを確認した上で「昇りの景色も見たい」と、もう1往復してしまったほどだ。


無人の新交通システムとなっている
無人の新交通システムとなっている

実は瀬野駅で降りた本来の目的は別にあった。瀬野からお隣の八本松の間は鉄道ファンの間で有名な「瀬野八」という急勾配区間。明治時代、峠にそのままレールが敷かれたという型破りな区間で、以前はほぼ全ての列車が、急勾配へ向けて瀬野で一休み。補助の機関車を付け、改めて勾配にチャレンジする形をとっていたため、機関区も設けられていた。


瀬野機関区の説明文
瀬野機関区の説明文

今は電車の性能も上がり、機関区の跡には記念碑と説明文だけが残されている。ただ勾配は健在で、久しぶりにそれを味わうべく、やって来たらスカイレールに魅了されたという展開だった。もちろん勾配は堪能しました。平日のお昼過ぎというお客さんの少ない時間を選んだのはこのため。動画でないと分かりにくいので写真はないが、並行して走る国道2号線の車を見ていると、よく分かる。私も最前部に陣取り、勾配を体感。もちろん下りも体感した。


瀬野機関区の記念碑
瀬野機関区の記念碑

広島から瀬野へは電車で30分。昼間は30分間隔で走っており、スカイレールも15分に1本。アクセスに困ることはないので、ぜひ体感してほしい路線だ。【高木茂久】