山口県の岩国駅から錦帯橋で有名な錦川に沿いながら山中に入る錦川鉄道の錦川清流線(岩国~川西間はJRの線路を走る)。完成することがなかった国鉄の岩日線を引き継いだ第三セクター。美しい景色を見ながら列車に揺られてたどり着いた終着駅の錦町では再会と出会いがあった(訪問は今年2月)。



錦川清流線の乗車は2回目。とはいっても前回は岩国から清流新岩国まで乗っただけなので正式な乗車区間は川西からの1駅だけとなる。駅名で分かるように清流新岩国は山陽新幹線新岩国駅(写真〈1〉)との接続駅だ。


〈1〉山陽新幹線の新岩国駅からスタート
〈1〉山陽新幹線の新岩国駅からスタート

その新岩国は岩国とはかなり離れた新幹線単独駅。しかし山陽新幹線の開業時、清流新岩国(当時の駅名は御庄)は岩日線に所属する国鉄駅だったにもかかわらず、当の国鉄から全く無視されていた。在来線駅が近くにありながら接続駅と認定されない日本唯一の駅として、当時、別の意味で鉄道ファンから注目される皮肉な駅だったが、国鉄民営化後、錦川鉄道に移管されてからは接続駅としてのアピールが始まり、6年前、現駅名に改められた。


〈2〉新岩国の改札を出ると乗り換え案内がある
〈2〉新岩国の改札を出ると乗り換え案内がある
〈3〉高架沿いを案内通りに歩く
〈3〉高架沿いを案内通りに歩く
〈4〉5分ほど歩くと清流新岩国駅が見えてくる
〈4〉5分ほど歩くと清流新岩国駅が見えてくる

新幹線を降りて清流新岩国を目指す(写真〈2〉〈3〉〈4〉)。500メートルほどの距離があるが、新幹線の高架沿いに通路があり、雨もしのげる。案内の導線も親切だ。しかし駅のホームで待ってくれていた一部は御庄駅のままの姿(写真〈5〉〈6〉)。少し笑ってしまった。


〈5〉ホームに到着
〈5〉ホームに到着
〈6〉待合室の表示は御庄駅のまま
〈6〉待合室の表示は御庄駅のまま

錦川清流線の前身である岩日線は岩国と山口線の日原駅を結ぶ目的で戦後に工事が始まったが、ほぼ完成していたにもかかわらず、黒字が見込めないとの理由で、既に開業していた錦町までの路線となって今に至る。ただ錦町までの50分、私は全く飽きなかった。錦川に沿って路線名通りの美しい光景が続く(写真〈7〉)。気動車にコトコト揺られながらの車窓に癒やされる。


〈7〉錦川の清流に沿って進む
〈7〉錦川の清流に沿って進む

その錦町に停まっていたキハ40(写真〈8〉〈9〉)に目を奪われる。あれ? なんでこんなところに? しかも見覚えがある。調べると栃木県の烏山線を走行していた車両だった。6年前、七福神を味わうべく烏山線に乗ったが(写真〈10〉)、それ以来の再会。烏山線は現在、充電式車両が走っており、遠く山口県に余生を求めたのだ。無知だったとはいえ、ちょっとした驚きと感動だった。


〈8〉終点の錦町駅
〈8〉終点の錦町駅
〈9〉錦町駅に停まっていたキハ40
〈9〉錦町駅に停まっていたキハ40
〈10〉烏山駅でのキハ40(2013年2月、烏山駅で)
〈10〉烏山駅でのキハ40(2013年2月、烏山駅で)

とことこトレイン(※)にも乗りたかったが、シーズン外でかなわず、昼食を求めることに。駅構内にレストランはあるが、開店は11時半で、まだ30分ほどある上、せっかくなので街を歩こう。

駅から商店街が続く。初めて来たが、なかなか大きな街である。ただ昼食を、となると夜の部はありそうだが、閉店の店があるのか時間が早いのか、なかなか見つからない。ようやく喫茶店の看板の前で清掃中のご婦人に出会い、入ることができた。

常連さんの男性がコーヒーを飲んでいた。「何でもいいのでランチを」と注文し、私よりも年上と思われる男性そして、お店のご婦人たちと世間話をする。「もうこのあたりは年寄りばかりでね」。豚のしょうが焼きに小鉢が数個というランチはおいしかった。そして量も多かった。

お店に電話がかかってきた。「お客さんですか?」と尋ねると「おばあちゃんがね、今来るって」。こちらも常連さんのようだが、しかしご婦人の年からして、おばあちゃんとは…。

「元気元気。90歳よ」

「きゅ、90歳!」

「今日はもうお昼は食べたので歌だけ歌いに来るって」

そういえば看板は「喫茶 カラオケ」だった。「元気に歌うのよ」とのこと。食べ終えたころだったので辞することに。おばあちゃんの元気な歌をぜひ聴きたかったが、歌が始まると出るタイミングが難しそうだ。会えなかったおばあちゃん、いつまでもお元気で。私も午前中とはいえ、ビールでも頼めばよかったかなぁ。【高木茂久】


錦川鉄道のオリジナル車両はグリーン、イエロー、ブルー、ピンクの4色
錦川鉄道のオリジナル車両はグリーン、イエロー、ブルー、ピンクの4色
錦川にかかる橋の鯉のえさ100円が、いい感じでした
錦川にかかる橋の鯉のえさ100円が、いい感じでした

(※)レールが敷かれるはずだった跡地を約6キロ、愛知万博で使用された電気自動車がトロッコ遊覧車として走る。土日祝日と春休み、夏休みに運行。冬季は休み