日本一短い鉄道路線である芝山鉄道線(千葉県)そして、それを運営する会社が芝山鉄道だ。全長わずか2・2キロ、わずか1駅の旅はたったの4分で終わってしまう。京成電鉄との共同使用駅である東成田駅と芝山千代田駅を結ぶ場所は成田空港のすぐ近く。時間帯によっては都心への直通運転もある路線に乗車した。そして東成田駅とは「初代」の成田空港駅だ。



ことの起こりは今年6月に東京へ行った際、京急品川駅で見た方向標だった(写真〈1〉)。「そういえば行ったことがなかった」。行けば必ず東成田駅とセットになる。なかなか見どころの多い路線と駅である。大阪からなので、なかなかすぐにはとはいかないが、少なくとも電車の本数を気にする必要はない。4カ月後の10月に訪問となった。


〈1〉京急品川駅で偶然見た芝山千代田行きの方向幕(今年6月)
〈1〉京急品川駅で偶然見た芝山千代田行きの方向幕(今年6月)

スカイアクセス線に乗ったことがなかったので特急(経費削減で、もちろん無料特急)で1度成田空港まで行き(スカイアクセスは京成成田を通らない)、あらためて京成成田から芝山千代田行きに乗車する(写真〈2〉~〈4〉)。昼間は都内との直通運転はなく、京成成田と芝山千代田を40分に1本の頻度で結んでいる。途中駅は東成田のみなので10分で到着だ。


〈2〉スカイアクセスで1度成田空港まで行く
〈2〉スカイアクセスで1度成田空港まで行く
〈3〉成田空港駅でいったん改札を出てから京成成田を目指す
〈3〉成田空港駅でいったん改札を出てから京成成田を目指す
〈4〉京成成田からいよいよ芝山千代田を目指す
〈4〉京成成田からいよいよ芝山千代田を目指す

1面1線の高架駅である(写真〈5〉〈6〉)。高揚した気分で駅名標を撮影して改札を抜けようとすると、いきなり関門が待っていた。自動改札機はあるが交通ICカードが使えないのだ。京成成田の入場記録はどうなるのかと不安になったが、そういう乗客が多いのだろう。駅員さんも慣れたもので、東成田からの「処理連絡票」を運賃200円とともに渡してくれた(写真〈7〉)。


〈5〉日本一短い路線に乗って芝山千代田駅に到着
〈5〉日本一短い路線に乗って芝山千代田駅に到着
〈6〉芝山千代田駅の駅名標
〈6〉芝山千代田駅の駅名標
〈7〉京成から交通ICカードで乗車した際の処理連絡票
〈7〉京成から交通ICカードで乗車した際の処理連絡票

次は東成田で下車する旨を伝えると「切符を買って東成田で処理連絡票と切符を提示してICカードで改札を抜けてください」と実に分かりやすく教えてくれた。おそらくこのパターンの鉄道ファンは極めて多いと思われる(写真〈8〉)。降車駅によってはICカード処理を窓口で行うことになるのだろう。


〈8〉芝山千代田駅の券売機。芝山鉄道の料金は当然200円のみ
〈8〉芝山千代田駅の券売機。芝山鉄道の料金は当然200円のみ

駅のすぐ隣は成田空港の敷地で、フェンスの向こうに飛行機が止まっている。そもそも線路と駅のある場所は成田市と芝山町との境界線だ。芝山町は古墳が多く、埴輪(はにわ)が出土する町として知られ、駅周辺でもそれがうたわれている。博物館もある(写真〈9〉〈10〉)。


〈9〉芝山町では多くのはにわが出土している
〈9〉芝山町では多くのはにわが出土している
〈10〉駅周辺の案内図。空港と接していることが分かる
〈10〉駅周辺の案内図。空港と接していることが分かる

芝山鉄道は空港によって、そんな芝山町の交通が不便になると開港前から提案された。ただ1981年に会社が設立されたものの、着工されたのは98年。02年に開業された。駅の構造からも分かるように延伸計画もあるが(写真〈11〉)、今後しばらくは「日本一短い鉄道会社」のままのようである。


〈11〉芝山千代田駅の車止め。延伸できるようにつくられている
〈11〉芝山千代田駅の車止め。延伸できるようにつくられている

電車の時間となったので改札に戻って券売機で切符を買う。芝山鉄道では、もちろん「200円」の一択だ。1駅で東成田に到着。この駅は初訪問ではない。といっても、まだ「成田空港駅」時代だ。芝山鉄道線が計画され、着工を待っている間に新しい「成田空港駅」と「空港第2ビル駅」が新たに敷設された線路に設けられ、成田空港駅は東成田へと改名された上、空港利用客が来ない駅となってしまった。

旧駅時代、私は何度かスカイライナーでこの駅に降り立っているはずだか、まるで記憶にない。というのも、あまりにも変わり果てた姿になっているから。ホームに降りただけでそれは分かる。ちなみに土曜日の昼、芝山千代田から乗車して東成田で降りたのは私を含め3人。乗車客は確認できなかった(写真〈12〉〈13〉)。後編では東成田駅について記してみたい。【高木茂久】


〈12〉東成田に到着。ホームは閑散としていた
〈12〉東成田に到着。ホームは閑散としていた
〈13〉東成田の駅名標。奥の使用されていないホームには成田空港の駅名標が残っている
〈13〉東成田の駅名標。奥の使用されていないホームには成田空港の駅名標が残っている

※日本一短い路線の定義は特になく、ケーブルカーも考慮すれば他路線も入る。普通鉄道で線路も車両も保有する鉄道会社(第1種鉄道事業者という。線路を持たないのが第2種、線路のみ持つのが第3種)の枠組みで日本一となっている。ただ芝山鉄道線は本文中にもあるように延伸計画があり、車両は路線内だけでなく東成田以降の京成線に乗り入れている。路線内で完結する鉄道会社という条件なら和歌山県の紀州鉄道(御坊~西御坊2・7キロ)となる。