大糸線は長野県松本市と新潟県糸魚川市を結ぶ105キロの路線である。深い山中を経て日本海に至るレールの途中にはスキー場、温泉地などレジャー施設も多い。鉄道的には南小谷駅の北と南でJR西日本と東日本と所属が変わり、前者の非電化に対して後者は電化、1両編成(単行)のキハ120がトコトコ走る前者に対し、後者は東京から直通の特急がやって来るなど表情も大きく異なり見どころも多い。今回は非電化区間のいわゆる「大糸北線」に乗車。私的にはJR西日本の路線で唯一の未乗車区間で大いに楽しみに現地に向かった。(訪問は9月17、18日)
今回使用したのは西なびグリーンパスという商品。50歳以上が対象でJR西日本全線5日間乗り放題でグリーン車or指定席に8回まで乗れて3万5000円。大糸北線にグリーン車は走っていない上、私の場合、平素からローカル線が主役の旅が基本なので、北陸方面へは特急と新幹線に乗せてさえもらえばいいのだが、とにかく権利はありがたくいただいておくことにする(※)。
と、朝の大阪駅で金沢行きサンダーバード1号(6時30分発)に乗り込むと一向に出発しない(写真1~3)。当日は台風が徐々に向かってきていたが、コースも含めギリギリ大丈夫だろう、との思いで早朝の大阪駅に到着した。やっぱり台風の影響が出たか、とガッカリしていたら踏切の事故だという。これは参った。金沢での新幹線乗り継ぎも、わずか8分しかなかったので旅程は崩壊である。結局、約50分遅れでの出発。予定していた糸魚川発の大糸線には当然乗れないが、もう開き直るしかない。というのも次の大糸線の列車は3時間後なのである(笑い)。
大糸線も全国各地のローカル線と同様、本数が多いとはいえない。JR東日本との境界駅である南小谷で運行が完全に分断されているが、糸魚川~南小谷間は1日わずか7往復(他に糸魚川~平岩間が2往復)。昼間に3時間の空白があるのもやむを得ない。今日の午後と明日午前の2日間で大糸北線全駅訪問を考えていたが、大幅な旅程変更を迫られた。ただ台風に備えて路線バスの時刻表を印字してバッグに入れていたのが幸運だった(バスを利用しないと全駅訪問は無理である)。
サンダーバードの車中で考慮した結果、タイトにはなるが何とかいけそうだ。糸魚川に到着。2年ぶりに降り立った。交通の要衝でもある糸魚川駅には、その象徴として大正期からのレンガ車庫が現役として使用され続けており、北陸新幹線工事の際、撤去を余儀なくされたが、象徴として壁面だけを残すこととなり、新幹線側となるアルプス口にそびえている。アルプス口には観光案内所とともに「糸魚川ジオパークステーション ジオパル」があり、かつて大糸線で活躍したキハ52などが静態保存されている(写真4、5)。
さて、いよいよ大糸線の旅をスタートしよう。1つ目の駅は姫川だが、いきなり徒歩である(汗)。糸魚川駅でダラダラしていたが、まだ1時間半もある。姫川までは約3キロ。前述した通り本数が少ないのでまずは駅を訪問して待ち構えることにする(合う時間のバスはなかった)。うまくいけば昼食にもありつけるかもしれない。まだ暑い季節だったので結構な汗をかきながら到着。ただ私の徒歩コースが悪くムダに坂を上り下りしたほか、食事にもありつけなかった。
姫川は1面1線、待合室だけの棒状ホーム。大糸北線で駅舎がないのはここだけ。さらに言うと、国鉄末期の1986年に設置された大糸線で最も若い駅である。糸魚川温泉の最寄り駅だが、国道をはさんだところに病院がある。既に廃業しているようだが、もともとは病院のために設けられた駅だったのだろうか(写真6~9)。
30分ほど待って、ようやく大糸北線に初乗車。ここから50分ほどキハ120に揺られる。姫川沿いの美しい車窓と各駅の様子を見ながら中土に到着。南小谷まであと1駅。既に長野県に入っている。今は南小谷が大糸線の南北の境界だが、元はこちらが大糸南線の終点だった。南側から伸びてきた線路は戦前にここまで到達したが、糸魚川とつながるのは戦後になってから。そのような流れからか、すでに使われなくなった片側ホームや駅舎内に、かつては駅に勤める人が多かった名残がある。現在は消防署の器具置き場となっているようだった。【高木茂久】(写真10、11)
※サンダーバードのグリーンは何度も乗ったことがあるが、北陸新幹線は初めて。北陸新幹線の速達タイプである「かがやき」は糸魚川を通過するため、乗車したのは、すべてが上越妙高まで各駅に停車する「はくたか」。約50分の乗車だったが、落ち着いた空気のあるやわらかい照明と高級感のあるシートは十分に堪能できた。(写真12~14)