山陰本線の不通区間を代行バスで行くことになった。列車で行くよりも、はるかに時間を要する移動だが、そこで出会ったのは素晴らしい駅舎と風景。翌日に急きょ予定変更となって回った各駅も記憶に残るものばかりだった。(訪問は9月20、21日)

出雲市から西へは途中から代行バス利用となる。8月の大雨の影響で地すべりが発生。江南~田儀間が運休となっていたから(10月2日に復旧)。途中に小田があって、わずか2区間。約10キロのこの区間は列車だと10分ほどで着いてしまうが、線路に沿った国道が大きなダメージを受けているため迂回(うかい)ルートを行くバスは40分もかかってしまう。1カ月以上にわたり、不自由を強いられていた地元の方には申し訳ないようだが、こちらはのんびり山陰本線を西へ向かう旅となったので貴重な体験をさせていただいた。

まず代行バスに乗り継ぐ江南駅の素晴らしさに目を奪われる。財産票を見ても、おそらく大正の開業時からそのままの姿。かつては長大編成の優等列車や貨物列車が多く走っていた山陰本線には、このような荘厳な駅舎がいくつか残っている。(写真1~3)

〈1〉美しい木造駅舎が残る江南
〈1〉美しい木造駅舎が残る江南
〈2〉臨時の折り返し駅となり、いわゆる「タラコ」列車が並ぶ
〈2〉臨時の折り返し駅となり、いわゆる「タラコ」列車が並ぶ
〈3〉財産標によると大正2年の建築
〈3〉財産標によると大正2年の建築

代行バスはすぐの発車なので駅とその周辺を味わうことはできなくて残念だったが、鉄道では味わえない車窓を味わいながら到着した田儀は別の意味で絶景の駅。まだ夏の香りが残る時期だっただけに高台の駅舎からホーム越しに海を望む光景に目を引かれる。個人的には「た」と「ぎ」の間に「か」が入っていないのが不自然だった(笑い)。(写真4~6)

〈4〉田儀の駅舎
〈4〉田儀の駅舎
〈5〉ホームと列車、海が絶景である
〈5〉ホームと列車、海が絶景である
〈6〉「た」と「ぎ」の間が空いていて私的には違和感がある(笑い)
〈6〉「た」と「ぎ」の間が空いていて私的には違和感がある(笑い)

この時点で特急は鳥取方面から益田までのスーパーまつかぜは運休。新山口までのスーパーおきは浜田発着となっていた。田儀から浜田まで2時間ほど普通に揺られ、途中で三保三隅に特急が停車することを利用して瓦ぶきの三角屋根駅舎にみとれて夕方の5時前に宿泊地の益田に到着。朝の7時すぎに新神戸駅発のさくらに乗車したので距離の割にはかなりの長旅となった。(写真7、8)

〈7〉特急の一部も停車する三保三隅
〈7〉特急の一部も停車する三保三隅
〈8〉益田へ向かう特急に乗り込む
〈8〉益田へ向かう特急に乗り込む

ということで翌日は急きょ浜田~益田間の駅巡りをすることに。不自由な思いをされた方には重ねて申し訳ないが、一部の特急が運休した分が普通になっていて細かく駅を回るにはかえって便利になっていた。浜田~益田間の普通は通常1日13往復で(※)、これに特急(一部が三保三隅のみ停車)が7往復プラスされる。通勤通学に寄せたダイヤなので昼間は2時間以上普通がない時間帯もあるので午前中が勝負である。各駅には詳細な各駅の臨時時刻表が張ってあるので分かりやすくなっていた。

途中は7駅で、まずパン店の入居する石見津田から瓦屋根の岡見へと向かう。岡見は少し前までJR貨物の駅だった。美祢線の美祢駅から美祢線、山陽本線、山口線を経て岡見駅近くの発電所に至る通称「岡見貨物」が鉄道ファンに有名な駅だったが、7年前に廃止されている。岡見から浜田方面に向かうと海側の車窓からレールが分岐していくのが見えるが、それが岡見貨物の跡である。(写真9~11)

〈9〉立派な駅舎を持つ石見津田
〈9〉立派な駅舎を持つ石見津田
〈10〉岡見も木造駅舎を持つ
〈10〉岡見も木造駅舎を持つ
〈11〉岡見では特急が、すれ違いのため運転停車していた
〈11〉岡見では特急が、すれ違いのため運転停車していた

駅舎が撤去され、駅周辺が木々のため、国道沿いにありながら駅がよく見えない高台のユニーク構造の鎌手に戻り、浜田のひとつ手前の西浜田へ。それにしても各駅は駅舎の「基本形」のひとつである三角屋根が並んでいて楽しい。浜田港への貨物支線の分岐駅だったこともあり、駅舎も含め駅の規模は大きかった。(写真12~14)

〈12〉鎌手はかつてあった駅舎が撤去され、木々に囲まれていて道路側から駅が隠れている
〈12〉鎌手はかつてあった駅舎が撤去され、木々に囲まれていて道路側から駅が隠れている
〈13〉鎌手は高台にある2面2線の駅
〈13〉鎌手は高台にある2面2線の駅
〈14〉かつては港への支線が分岐していた西浜田
〈14〉かつては港への支線が分岐していた西浜田

そして本日のメインディッシュである折居に向かう。道路を挟んで海。海に近い部分を通ることが多く車窓が楽しめる山陰本線だが、こちらは本当に近い。駅舎は近年、海のイメージの青に塗装された。無人駅だが、駅舎内にはかなり以前に使用されていたと思われる手書きの遅延案内やホーロー駅名標が保存されている。おそらく貨物用だった側線は生きていて保線車両の置き場となっているようだ。1面2線のホームと側線そして海。ぜひ訪れてほしい駅である。(写真15~18)

〈15〉青く塗装され直した折居
〈15〉青く塗装され直した折居
〈16〉駅舎を出るとすぐ海である
〈16〉駅舎を出るとすぐ海である
〈17〉駅舎内はかつて使用された手書きの案内が残されている
〈17〉駅舎内はかつて使用された手書きの案内が残されている
〈18〉ホームの名所案内の文字にもひかれる
〈18〉ホームの名所案内の文字にもひかれる

最後の駅は周布(すふ)。ちょっと難読である。今日はバスを利用することなくここまで来たが、11時前となり列車が尽きた。バスの時間を調べていると、周布から頻発していることに気付く。今は1面のレールがはがされている実質1面のホームを降りると、そこは住宅街。一体どうしてバスが多いのかと歩くこと10分。その理由が分かった。バス停に立っていると、数分遅れるだけで不安になるものだが、ここなら心配ないだろう。ゆっくり休憩してバスに乗り込み、ゴールの浜田である。(写真19~21)

〈19〉周布駅の全景
〈19〉周布駅の全景
〈20〉ちょっと難読で「すふ」と読む
〈20〉ちょっと難読で「すふ」と読む
〈21〉周布からのバスが多いと思っていたら営業所があった
〈21〉周布からのバスが多いと思っていたら営業所があった

山口線の一部駅に行きたいので12時半の特急に乗り込む。焼きさば寿司が今日の昼食。事情により、まだ越美北線が紹介できていないが、今年の夏休み5日間は列車の遅発や台風の影響、自らのハプニングなど、いろいろなことがあったものの、充実したものだった。【高木茂久】(写真22、23)

〈22〉基幹駅でもある浜田。駅前の神楽時計が印象に残る
〈22〉基幹駅でもある浜田。駅前の神楽時計が印象に残る
〈23〉焼きさば寿司を食べながら帰途につく
〈23〉焼きさば寿司を食べながら帰途につく

※一部は快速で浜田~出雲市間が快速運転となるが、上り1本を除いて益田~浜田間は各駅に停車する。