島根県西部の石見地方へ-。人気の「石見神楽」と、石見銀山を見に行った。行ったといっても実は今年の春である。それから、国内は全国的にコロナ禍。旅では動けなくなった(というか、書けなくなった)。で、今は? 「また、ぜひ来てください。対策もしっかりとっていますし」と県の観光課に電話取材すれば力強い答えが返ってきた。神楽公演も少しずつ、また再開されているという。



石見神楽を見るために、この石見に集まる女子のグループ「“神楽”女子(カグラージョ)」が誕生して話題になったのが、もう5年以上も前のことである。そのころから、石見神楽が、一地方の伝統文化を超えて全国的に知れ渡り出したのかもしれない。

その特徴は、徹底した勧善懲悪のストーリーや、けれん味たっぷりの豪華衣装や派手な装置。そしてスピード感…。さまざまに言われているが、1番は「わかりやすさ」ではないか。


浜田市の三宮神社の石見神楽
浜田市の三宮神社の石見神楽

今は、この地域の神社や観光施設で幅広く演じられている。

この春に見たのが浜田市の三宮神社の夜公演。約1時間半のものだったが、目と鼻の先が舞台。こちらはあぐらをかいて座ろうが、足を伸ばしていようがそれは自由でいい。このリラックス感もまた人気のひとつだと言われている。


「大蛇」は舞台も客席も熱気ムンムン
「大蛇」は舞台も客席も熱気ムンムン

演目は「大蛇」など3つだったが、どれもわかりやすく、短く、そして派手でど迫力! 大蛇が火を噴き上げ暴れ回るのを、須佐之男命(すさのうのみこと)が、大立ち回りで退治する。

浜田市の神楽社中の1つ、西村神楽の日高均代表によれば「この地方では、代々、親子で神楽を舞う家庭や『神楽こそが、人生そのもの』という人たちがたくさんいる。もちろん追っかけがでるほどのスターもいる。仕事より神楽という人も多い」。

まさに、地元の生活の中にある石見神楽。1番の魅力は「う~ん、やったらやめられない。おもしろくて。見る方も、やる方も。分かりやすさ、盛り上がり…。その陶酔感がたまらない」。ぜひ、見に来てくださいと締めくくっていた。


大蛇を長年作ってきた植田さん
大蛇を長年作ってきた植田さん

ところで、前述した大蛇の伸縮自在に激しくのたうち回る動きを可能にしたのが、地元で故人の植田菊市氏という人。

「発想はつり下げ式のちょうちんでした。あの伸縮性にヒントを得て、竹の輪に和紙を何枚も何枚も重ねて張るという簡潔ながら、軽量でしかも強い巨大蛇を作ったのです」

こう語るのは菊市から3代目にあたる植田晃司さん。現在は、ほぼ石見神楽の蛇胴作りを、独りで引き継いでいる。「1年に約60匹。それを、もう60年もやってきています。単純計算でも3600匹。すごい数になりましたわ」と楽しそうに振り返って笑った。


山の中にひっそりと石見銀山の坑道跡
山の中にひっそりと石見銀山の坑道跡

さて、この神楽を見物した翌日、巡ったのが石見銀山である。

「頭をぶつけないように、足元はぬれないように。くれぐれも注意して」

ガイドの足立さんが照らす、細い懐中電灯の先に、コウモリが身じろぎもせず、こちらをじいーっと見つめていた。龍源寺間歩(まぶ)。間歩とは坑道のことである。銀山の坑道跡。全長600メートル。そのうち157メートルを公開している。

水がポタポタと天井の岩から滴り落ちる中を体を小さく小さくかがめながら進んでいく。

「昔はサザエの貝殻に、油を入れて、採掘するときの明かりにしていました」

螺灯(らとう)という。実際に、懐中電灯を消し、この螺灯に火をつけてみる。ほとんど暗く、闇の世界は変わらない。こんな暗闇で…。銀を掘り続けていたのか。当時の鉱員の多くは30代が寿命だとも聞いた。

銀で栄えた地元の武家や豪商がいる一方で、過酷極まりない環境で働いていた人たち。それがある意味鉱山の歴史であり、また後世に伝えなければいけない世界遺産の大事な一面でもあろう。


風の国では人気のグランピング
風の国では人気のグランピング

最後にもうひとつ、紹介するのが石見銀山から約1時間。江津市桜江町にある、広大な温泉リゾート、「風の国」である。

33ヘクタールの広々とした野原、その中には森もあり、池もある。テニスコート、グラウンドゴルフ場も。そしてお風呂は温泉である。


中には豪華なベッド
中には豪華なベッド

特にユニークなのが森の中にたたずむ球体テントとドームテント。今、人気の高いグランピングができる施設だ。グランピングとはグラマラスとキャンピングを合わせた造語らしいが、取材した日は天候が悪く、中を見るだけだったが、お酒でも持ち込んで、それこそ仲間と「森のささやきや風の音」を聞きながら、楽しめたら最高だろう。とこの時だけでも詩人になれそうな自然の中の空間だった。