日本一のチヌ(クロダイ)釣り師を決する「第35回G杯争奪全日本がま磯(チヌ)選手権」が25日までの3日間実施され、徳山(山口)予選6位の藤井夢人(ゆめひと)さん(34=島根・益田市)がG杯初出場初優勝の快挙を成し遂げた。試合前の自己紹介で「釣れる気しかしない」と言い切り、実証してみせた。最大のピンチも5分間釣りをやめて、メンソール味のリップクリームで気分転換して立ち直った。

 昨年9月に実施されるはずだったが、台風のため23日から3日間の日程で、同じ開催地の岡山・下津井で開催された。この時点で夢人さんには、初優勝への微風が吹いていた。

 チヌの全国大会だが、夢人さんはアユが本業になる。「アユのシーズンは夏から初秋。オフはちょうど磯釣りが面白くなる。自然とチヌにはまった」(夢人さん)。島根県のアユ釣り解禁は6月1日以降なので、今回の順延はチヌ対策にじっくり時間を費やせた。

 大会2週間前に下津井入りして、爆釣した。このときにハリスの長さを2ヒロ半(約3・75センチ)と確信。余計な細工はせず、海藻や潮目の際に仕掛けを流し込む釣り方が有効なことを察知した。初出場のG杯はすべてこの釣り方だけで乗り切った。事前の準備が夢人さんの自信になった。

 23日、午前中に試釣をしたが何も釣れなかった。同夜、選手48人が集まるミーティングの自己紹介で「今日、前釣り(試釣)をしましたが何も釣れませんでした。でも、釣れる気しかしません」と言い放って、会場をどよめかせた。夢人さんによると「役員さんに失笑された」。メラメラと燃えてきた。

 予選リーグは5組。2勝2分けだった。合計ポイント26点、わずか1点差で2人を振り切って決勝進出を決めた。3試合を戦う決勝トーナメントでは、勢いそのままに2連勝した。チヌを釣って負けても2点を加算して22点になるため、第3試合はチヌさえ釣れば決勝進出できた。ところが、前半は何も釣れない。見えないプレッシャーが夢人さんを襲ってきた。

 前半残り5分、サオを置いた。焦る気持ちを封じ込めるように目を閉じてリップクリームを唇に塗った。メンソールの香りで心臓の鼓動が落ち着いてきた。目を開いて、後半戦う釣り場を境界線越しにのぞいて、戦略を立てた。2週間前の好調さを思いだし「間違いなく釣れる」と心の中でつぶやいた。後半、3匹を釣って5400グラムと重量をそろえて、第3試合は惜敗したものの合計得点でトップを守り、決勝に進んだ。

 決勝戦でも、マイペースをキープできた。前々大会準V、前大会3位でシード出場の波多瑞紀さん(37=広島県竹原市)に前半先行されたが、慌てなかった。「前半の場所では何をやっても釣れない。勝負は後半」と試合前から冷静に分析していて、後半に3匹連続でキャッチして圧勝で初栄冠を手にした。

 G杯でチヌ大会の順延は初。つまり、春と秋に2回開催するのも初めて。「アユとの兼ね合いもありますが、また秋のパターンを勉強して、もちろん勝ちを狙います」と表彰式後は堂々と連覇宣言をした。9月の2017年度の大会で自己紹介をどう切り出すか、楽しみだ。【寺沢卓】

 ※今回の48人の選手中に「藤井」姓が3人いたため、本文では「藤井夢人さん」は「夢人さん」で統一しています。