釣り糸革命が起こるかも知れない。先月、横浜市で行われた釣り業界最大級の祭典「釣りフェス 2026 in Yokohama」で、新たな釣り糸を発見した。


自動車部品メーカー「TPR」が開発した「Yarnable(ヤーナブル)」という製品だ。カーボンナノチューブという素材を用いて、感度と強度を重視。ナイロン、フロロカーボン、PEとまったく違う。かすかなアタリも逃さない、釣り人にとってうれしい釣り糸だ。

釣りフェスに出展したTPRブース
釣りフェスに出展したTPRブース

★水中で真っすぐ

宇宙エレベーターの成立技術として注目されている高機能素材、カーボンナノチューブ(CNT)が次世代の釣り糸に活用される。ヤーナブルはCNTを芯材として、周囲をPEなどで編み込んでいる。最大の注目点は「高感度性能」。張らず緩めずの状態でも水中からの情報をしっかり伝えてくれることにより、かすかなアタリも確実に感じることができる。


この素材、ナイロンやフロロカーボンでは得られない高い引っ張り強度としなやかさと巻きクセのつきにくさを実現させた。水中で真っすぐ安定して漂うことができるのが大きな特長だ。その一方で、PEラインでは再現が難しい、優れた耐摩耗性やショック吸収性、結束性も兼備している。


軽量で高い強度のCNTに、エンジン内のピストンリングなどを製造していた開発技術を融合させ、製品化した。これまではエネルギーや熱などの用途で展開してきたが、3年ほど前から釣り糸の分野に目を付けた。

新素材「カーボンナノチューブ」を使って商品化されるTPRの釣り糸「ヤーナブル」
新素材「カーボンナノチューブ」を使って商品化されるTPRの釣り糸「ヤーナブル」

★ブラックバスで

開発に当たっては経験豊富な釣り人の力を借り、試験を兼ねて沖に出たり、磯に上がったり、ブラックバスで実釣を繰り返していた。微妙なアタリを拾わなければいけないカワハギ釣り、ブラックバスを狙ってスモラバを底で引きずって誘う場合などに水の抵抗で浮くことがなかった。また、全般に軽いルアーを流したり、活性が低くてアタリが小さかったり、取りづらかったりした場合に威力を発揮したという。

ブラックバス釣りでも機能を発揮
ブラックバス釣りでも機能を発揮

★今秋2種類発売

一昨年の釣りフェスでは、釣りへの取り組みを多くの釣り人に知ってもらうために初めてブースを出した。実際に実用化のめどが付いた今回、2年ぶりに出展。フェスに訪れた3万7846人(前年比2138人増)の来場者に、初めて新しい糸をお目見えさせた。今年秋には0・4号と0・7号の2種類(特許出願中)を商品化する予定だという。


日刊釣りペンクラブのベテラン釣り師、鵜澤政則会員は、「ビシアジのサオをスルメイカ釣りに使うとか、サオはいくらでも転用できる。釣り人にとって最も大事な道具は針と糸。感度良好な糸は永久の課題」と言う。これなら、1歩近づける。

試験の実釣で釣れたマダイ
試験の実釣で釣れたマダイ

40年近く前まで、リールに巻く道糸はナイロンが主流だった。マダイの場合、ナイロンの10号とか12号を巻いていた。30年ほど前にPEという新素材が登場。強度が増した上に、ナイロン糸よりも細くなり、PE5号か6号に取って代わった。今や同じPEでも2~3号を使っている。ひとつテンヤなどはPE1号でも太いくらいだ。重厚長大から軽薄短小へ、釣り糸も日本の産業構造と同じようになってきた。


「ものづくり」という点でもう1つ、繊維機械から自動車へ、カメラのフィルムから化粧品へ、日本では開発した技術を別の分野に転用して発展している。TPRのヤーナブルも、転用が生かされている。

試験の実釣で釣れたクロダイ
試験の実釣で釣れたクロダイ

■千葉・金谷「光進丸」

釣りフェスの後、TPRはヤーナブルを使った実釣を千葉・金谷「光進丸」で開催した。対象魚はカワハギ。北や南西からの強い風が吹きつけ、ウネリも残る悪条件の中だった。「だからこそ、アタリが取りやすいという最大の長所をいかんなく発揮できました」。同船したインストラクターは声をそろえた。


当日は7人がサオを出して15~29センチが3~15匹。エサ取り名人で、アタリも取りづらく、屈指の技術力を問われる釣り物であることなどは関係ない。オモリを着底させたら、道糸を張らず緩めずでアタリを待つ「ゼロテン釣法」で全員が型を見た。

ヤーナブルの実釣会ではカワハギをダブルでゲットした人も
ヤーナブルの実釣会ではカワハギをダブルでゲットした人も

ヤーナブルは糸の浮力がないため、海面よりも上で道糸が風にあおられることはない。ナイロン、フロロカーボン、PEなら風に吹かれたり潮に引っ張られて道糸がどんどんフケていただろう。海中にもスンナリ沈められ、底を取りやすい。サオ先と仕掛けがほぼ直角となり、たとえかすかでもアタリがあればコンコンと微妙に穂先が揺れる。そんなアタリを釣り人たちは確実に拾っていた。


釣り具メーカーがサオやリールなどの新製品を試すため、よく実釣会を行っている。TPRも今後、一般の釣り人を対象とした体験会を開催してヤーナブルを浸透させていくとしている。

確実にアタリを拾ってダブルでカワハギをゲット
確実にアタリを拾ってダブルでカワハギをゲット

■釣り糸の種類と長所短所

◆ナイロン

<長所>適度な伸び、張りを持っているのでライントラブルが少ない。弾力性があるので手前マツリしてもほどきやすい。遠投性能が高く、魚が針をくわえた時に針がかりしやすい。価格も安い。


<短所>吸水性があるので何度も使ったり、紫外線を浴びすぎると劣化が早い。摩擦にも弱く、岩礁地帯などでラインがこすれると切れやすい。


◆フロロカーボン(フロロ)

<長所>耐摩耗性が高く、障害物周りでの根ズレに強い。ヒットした後に水中の障害物に潜ることが多いバス釣りや、アユの友釣り、海の磯釣りや消波ブロックの周りなどに向く。伸長性が低く、ヒットした感触が伝わり、アタリが取りやすい。水中で目立たず、沈みやすい。吸水率が低いし、紫外線にも強く、使い続けても強度が落ちない。


<短所>ラインを結束した時の強度が低い。ナイロンよりも硬く、巻きグセが付きやすいので、ライントラブルも多い。


◆PE

<長所>単線ラインのナイロンやフロロと違い、極細のポリエチレン素材を複数本編み込みにしているので伸長性は低い。引っ張り強度は高いため、これら2つよりも細い径で同じ強度が出せる。これにより、リールの巻き量を増やせるため、深場の釣りに向いている。また、空気抵抗が少ないため、飛距離が出しやすい。アタリも取りやすい。


<短所>耐摩耗性が低く、傷つきやすい。軽くて浮きやすいため、波や風の影響を受けやすい。ラインで最も負荷がかかる結束部分が弱く、切れやすい。