医師で作家の鎌田實さん(67)が、日常生活のちょっとした工夫で健康になり、10歳若返るヒントを教えてくれます。

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 アルツハイマー病の危険遺伝子がわかっている。ApoE4型という遺伝子である。両親ともこの遺伝子を持っていると、子どもは2つ持っている可能性が高い。2つ持っていると80%の確率で若年性アルツハイマー病を発症するといわれている。

 ぼくの友人Sさんは、51歳で若年性アルツハイマー病と診断された。60歳を超えた今も元気で、認知症を生きるとはどういうことか、講演に呼ばれて、全国を飛び回っている。

 彼のいいところは、認知症を隠さず、閉じこもらなかったところである。

 インターネット関係の会社にいたが、仕事に支障が出てきて会社は辞めた。退社後は、認知症であることを隠さず、積極的に出歩くことを決めた。自分がやれることをやっているうちに、いろんな人たちから講演の依頼が来るようになった。

 ときには外出先で道に迷うこともある。そういうときは「私は認知症です」というカードに、自宅の住所が書いてあるものを示して、助けてもらう。見知らぬ他人だが、いつでも応援してもらえた。

 認知症は、まだら状に障害が起こる。記憶力や記銘力(新しく体験したことを覚えておく力)などが低下するが、いいところもたくさん残っている。障害に注目しすぎて、消極的になってはいけない。いいところに注目して、社会とかかわりながら、前向きに生きることで病気の進行も遅くなる。

 Sさんはこう言った。

 「認知症になって少し生活は不便になったが、ぼくは不幸せではありません。ぼくは幸せです」

 Sさんから、幸せとは何かを教えてもらった。

 ◆鎌田實(かまた・みのる)1948年(昭23)6月28日、東京生まれ。東京医科歯科大医学部卒業後、長野県茅野市にある諏訪中央病院の医師になる(現在は名誉院長)。チェルノブイリ原発事故の患者支援、イラク難民支援を続け、東日本大震災後の被災地支援にも力を入れている。著書「がんばらない」など多数。