肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【たばこを吸わなくても肺がんになるの?】

 たばこががんや心血管障害、呼吸器疾患などさまざまな病気の原因であることはよく知られています。日本ではたばこが原因で毎年約13万人もの人が亡くなっていると推測されています。さらに自分がたばこを吸わなくても、他人のたばこの煙を吸う受動喫煙によっても毎年1万5000人が亡くなっていると推計されています。

 たばこを吸わない人に比べて、たばこを吸う人は男性では4・5倍、女性では4・2倍、肺がんになりやすいといわれています。たばこの影響を受けやすい扁平(へんぺい)上皮がんと小細胞がんでは、たばこを吸う人は吸わない人に比べて、男性では12・7倍、女性では17・5倍かかりやすいと報告されています。

 肺がんの原因で最も重要なものはたばこですが、それ以外にもアスベスト、大気汚染、女性ホルモン、六価クロムなどが原因として考えられています。たばこを吸わなくても受動喫煙により肺がんのリスクは1・3倍上昇するといわれています。

 同じたばこを吸う人のなかでも、吸いはじめてからの年数が長いほど、また、1日に吸う本数が多いほど、肺がんになりやすいといわれています。たばこをやめた人での肺がん発生率は、たばこをやめてから9年以内では、吸わない人に比べて3倍でしたが、10~19年では1・8倍、20年以上でたばこを吸わない人とほぼ同じになるといわれています。

 たばこをやめれば、何歳であっても吸い続けた場合に比べて肺がんのリスクは下がります。たばこを吸っている方は、ぜひ、禁煙にチャレンジして下さい。

 ◆喫煙指数(ブリックマン指数) 1日に吸うたばこの本数×喫煙年数。喫煙指数が高いほど、肺がんになる危険性が高まります。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。