肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【肺がんは遺伝子の病気?】      

 肺がんに限らず、がんはがん遺伝子やがん抑制遺伝子の異常により起こる場合が多いと考えられています。肺がんの最も重要な原因はたばこですが、喫煙によって遺伝子に傷がつくことが肺がんの原因の1つです。

 すべての肺がんの原因がわかっているわけではありませんが、肺腺がんではEGFR、ALK、ROS、RET、BRAF、MET、KRASなどの遺伝子の異常が原因となる肺がんが報告されています。EGFR遺伝子の変異がある患者さんは、日本人の場合、肺腺がんの40~50%です。

 ALKの遺伝子異常をもっている患者さんは、肺腺がんの約5%です。その他、ROS、RET、BRAFの遺伝子異常を持っている患者さんが、それぞれ約1%です。これらの遺伝子異常が起きると異常なタンパクが生産され、このタンパクから細胞を増殖させる信号(シグナル)が出続けることによって、細胞ががん化すると考えられています。

 このような異常なタンパクの働きを抑える薬、EGFR阻害薬、ALK阻害薬、ROS阻害薬などが、遺伝子異常を持っている患者さんには大きな効果を発揮しています。その他にも、RET、BRAFなどを抑える薬も近い将来、日本でも使えるようになると期待されています。

 肺がんの場合、これらの遺伝子異常はがん細胞のみで見つかる異常であり、正常細胞には存在しません。したがって、このような遺伝子異常があるかないかは気管支鏡検査などで肺がんの組織や細胞を取って調べる必要があります。EGFR、ALK、ROSの異常は保険診療で調べることができますが、それ以外の遺伝子異常を調べることは研究として行われています。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。