「暴走老人」という言葉が生まれて10年がたち、高齢者の事件が起こるたびに、キレやすい高齢者の増加が話題になります。確かに「犯罪白書」を見ると、刑法犯の検挙人員は他の年齢層は減少しているにもかかわらず、65歳以上は高止まりが続き、2015年は4万7632人。20年前(1996年)の3・8倍になっています。中でも著しく増えている傷害、暴行の検挙人員(5523人)は96年の約20倍です。高齢者人口の増加だけでは説明できない数字です。

 ただ、加齢によって感情のコントロールが利かなくなるというデータはありません。認知症などの疾患が原因で抑制が利かず、怒りっぽくなる人は確かにいますが、一方で年を重ねることで思慮深くなり、まるくなる人も当然います。言えるのは、高齢者犯罪の増加の背景には、孤立があるということです。

 現役の間は社会的な「たが」があります。ここで、けんかしてしまったら、会社が、家族が、世間体が…というたがです。リタイアすると、会社のたがが外れます。核家族化が進んでいることやコミュニティーの崩壊で地域との関連が薄くなったことで、誰かに迷惑がかかるとか、世間体が悪くなるという感覚も持ちづらくなっています。人との会話が少なくなり、コミュニケーション能力が低下するということもあります。いずれも孤立化がもたらすものです。

 高齢者の刑法犯は、男性が3万1335人(65・8%)。女性が1万6297人(34・2%)で、男性が3分の2を占めます。激増している傷害・暴行は、男性が女性の7倍以上です。女性に比べ男性は変化への順応が不得手という側面もあるかもしれません。