薬物依存症治療のスペシャリスト、国立精神・神経医療研究センター「薬物依存症治療センター」の松本俊彦センター長は言う。

 「10代のセックス経験者で、自傷行為の経験がある場合、一般の自傷行為経験のない人に比べて、セックスの時にコンドームを使わないといわれている。望まない妊娠により学業的、職業的なキャリアが中断される、性感染症のリスクが上がる、不特定多数との交渉を持つなどの“危なっかしい”状況にいることが多いのです」

 このことは多くの臨床でみられる。若者が薬物に手を染めるまでを、松本氏が以下のように整理している。

 例えば、小さいときに虐待を受けた経験、あるいは就学前に多動や粗暴があること、学校でイジメの被害に遭うこと、学校生活で達成感を体験できないこと、さらには両親の不和や、親のアルコール・薬物問題といったことは、将来の薬物乱用を予測する要因である。こうした体験がやがて本人の飲酒や喫煙の経験に、そしてうつ、不安、自傷行為を経て薬物乱用へと発展していく。

 「つらい感情を紛らわすためだったり。クスリを使うことで、ひとりぼっちだったのが友達ができたり。女性なら痩せて自分が好きになったり。あるいは暴力を振るうパートナーとの関係が切れず、それに耐えるためだったり。実は、薬物以外に困っていることがある人ばかりなのです。薬物依存には、何らかの生きづらさや苦しみを和らげるためにクスリがあるという仮説に基づいて、関わっていかなければいけない」(松本氏)。

 覚醒剤不使用を呼びかける「覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか」というキャッチフレーズを知らない人はいないだろう。しかし、それが弊害を生んでいる。

 「私は15年前から定期的に少年院などに行き、いわゆる非行少年たちの診察や調査をしています。あるとき、覚せい剤取締法違反で捕まった10代の子が入ってきました」と松本氏。(続く)