心筋梗塞で救急搬送され、緊急手術で治癒したものの、その後、肺炎で亡くなるケースがあります。これは手術をした医師にとっても、実に悲しいものです。

 今は心筋梗塞で救急搬送されても、詰まった冠状動脈に新しく血液の流れる道、いわゆるバイパスを作る「バイパス手術」が行われることはほとんどありません。95%以上が緊急であっても「心臓カテーテル治療」での対応です。手首の付け根や肘、太ももの付け根から動脈にカテーテル(細い管)を挿入し、詰まっている冠状動脈をバルーンカテーテルで広げてステントを置き、冠状動脈を広がった状態にする治療です。

 しかし、20年くらい前は、バイパス手術が中心でした。70代のC男さんは救急車で運び込まれ、私が担当となり、C男さんの状態を調べ、「すぐに手術をするべき」と判断し、バイパス手術を行いました。当時、私たちはバイパス手術をたくさん行っていたので、手術を担当するグループのチームワークはとれていて、患者さんの手術はスムーズに終了し、集中治療室へ。そして、数日もするとC男さんは一般病棟に戻って、リハビリを行う段階に。C男さんが元気にリハビリを行っている様子を、私も見ていたのです。

 安心しきっていた手術後1週間ごろ、C男さんは発熱を起こし、容体が急変したのです。胸部エックス線では肺が白く映っており、肺炎を起こしているのがわかりました。(つづく)

(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)

 ◆心筋梗塞 心臓には冠状動脈によって血液が送られ、元気に拍動を続けています。その冠状動脈の血液の流れが悪くなるのが「狭心症」、遮断されて流れなくなるのが「心筋梗塞」。血液が不足し、酸欠状態になり生死に関わります。