<心臓弁膜症(5)>

 心臓の弁が正常に機能しなくなる「心臓弁膜症」。その中で全身に影響を及ぼしやすいのが「僧帽弁疾患」と「大動脈弁疾患」で、弁膜症の手術の95%を占めています。僧帽弁疾患は紹介しましたので、今回からは大動脈弁疾患を紹介します。

 大動脈弁は、心臓の左心室から血液が大動脈へ押し出されるところにあり、極めて重要な弁。その大動脈弁疾患には「大動脈弁閉鎖不全症」と「大動脈弁狭窄(きょうさく)症」があります。 

 大動脈弁閉鎖不全症は、弁がキッチリ閉じなくなり、血流が逆流してしまいます。原因は大動脈弁の先天的な異常の他、加齢、高血圧などによる弁の変化。加えて、大動脈弁から出たすぐのところの「大動脈瘤(りゅう)」や「大動脈解離」なども原因となります。

 一方、大動脈弁狭窄症は、大動脈弁が硬化して30%程度しか開かなくなり血液の通過する面積が狭くなってしまいます。この弁の硬化の原因は、動脈硬化によって弁が石灰化するためです。

 重要な大動脈弁に問題が生じると、さまざまな症状を引き起こします。「階段を上ると息が切れる」「疲れやすくなった」「脚がむくむ」などの症状です。ところが、動脈硬化が原因の場合、患者さんは50代以上の方がほとんどとあって、“年だからしょうがない”と年のせいにしてしまう傾向があります。すると、症状は進行し、「狭心症のように胸を締めつけられる」「失神を起こす」といった状態に。ここまで来ると「座っていても息が切れる」ので、心不全の状態になっています。

 こうなると心臓が伸縮しにくいので、血液を十分に送り出せません。すると、1年で25%、2年で50%の方が亡くなってしまいます。その前に、大動脈弁疾患を早期発見し、早期治療を行って欲しいのです。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)