<信頼できる心臓外科医とは(8)>

 心臓外科医に限らず、外科医は「この手術は、私でないとできない!」「誰もできない手術ができる私はすごい!」と思っている人が多い。しかし、私はそうは思いません。手術には「再現性」が重要と考えています。その再現性には2つの意味があります。

 第1は、治療の道具の必要性です。心臓弁膜症の1つである大動脈弁疾患にも、いろいろな疾患があります。ただ、私が開発した「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」では、患者さんの心臓を覆っている心膜を使って弁尖(べんせん、弁のフタ)を作り、新しい弁として機能させます。その弁をきちっと同じようにサイジングし、それに基づいて弁尖を作ると、1つの手技で大動脈弁疾患の治療ができてしまいます。その補助道具として、いろんなサイズに対応できる「弁尖サイザー」を作りました。

 そして第2は、私が開発した弁尖サイザーを使えば、私と同じような弁尖が作れるのです。100%同じとはいかなくても、90~95%のものができると、これはすごい再現性です。誰が行っても同じようにできる、そういう手術を私は目指しているのです。

 つまり、私が開発した手術は、私以外の心臓外科医も同じように道具を使って行うと、ほぼ同じような手術を再現できるのです。私1人では、大動脈弁疾患の手術は年間100例くらいです。100人の患者さんしか救えないのです。しかし再現性がある道具などを使って、手術が同じようにできる心臓外科医が100人いれば、1人が100例ずつ手術を行った場合、1万人の患者さんを救えるのです。

 私でないとできない手術ではなく、どの心臓外科医も同じようにできるものでないといけない。それこそが「医療のあるべき姿」-。私はそのように思っています。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)