認知症対策でセックスが有効であることを述べましたが、気をつけたい点があります。

 まずはその頻度です。アルツハイマーといった認知症予防目的の場合、何歳くらいの男性が対象なのでしょう。脳の老化は若いころから始まっており、40歳代男性でも認知症になる人はいます。ですから若い頃からのセックスも、予防として重要なのです。

 では該当する世代の男性は、少なくてもどれくらいの頻度でセックスするのがおススメでしょうか? ある統計では、世界各国のセックスの年間平均回数を調べたところ、1位は164回のギリシャだったのに対し、日本は最下位の48回だったとか。確かにデータで見ても、日本人のセックスの回数は少なすぎます。それぞれの体力にもよりますが、疲れないのなら週に2、3回、人によっては毎日でもよいかと思います。

 次に認知症予防でセックスを行う場合の注意点。これは「義務的にやるセックスの場合は効果が薄い」ということです。義務的に行うと、前回説明した「デュアルタスク」(2つの仕事)のうち、有酸素運動のみしかタスクを果たせなくなります。創造力、想像力を巧みに働かせるには、義務的なセックスでは、普通の有酸素運動と変わりはありません。

 また、自慰行為との差異はあるのか、ないのか。自慰行為でもある程度の予防効果は望めますが、実際のセックスに比べて、はるかに効果が薄いと考えます。実際のセックスでは、たとえ避妊具をつけていても、相手の体内へ射精した、繁殖行動をしたという、人間として、動物として、生物学的に崇高な満足感があり、これが神経細胞を活発化すると考えられます。

 一方、夫婦ではセックスレス、浮気をしたり風俗に行く気もないという男性の場合は、何か対策方法があるでしょうか? ズバリ「デュアルタスク」です。散歩や、自転車こぎ、ジョギングをしながら、エッチなことなどを考えて、想像力を働かせることです。自転車こぎの装置の前に、グラビアでも置いておけばどうでしょう。

 ◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビではコメンテーターのほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など人気番組の医療監修も数多く務める。著書は「今すぐ『それ』をやめなさい!」(すばる舎)「ダイエットはオーダーメイドしなさい!」(幻冬舎)「ねぎを首に巻くと風邪が治るか?」(角川SSC新書)など。気分転換は週2回のヨガ。