わたしは、「食べてすぐ横になると牛になるよ!」と、親から叱られた世代です。実際、食べてすぐ横になったから本当に牛になった人がいるわけでもありませんから、これは「お行儀が悪いからやめなさい」ということでしょう。

 逆に、食後すぐに激しい運動をすると、身体の血液が筋肉に多く流れるため消化管の血行が悪くなり、消化不良の原因になります。

 むしろ、食べてすぐ横になったほうが医学的にはよいのです。ただ、胃酸が食道に逆流してしまう逆流性食道炎の人もいるでしょうから、「食後はリラックスする」という程度がいいかもしれません。

 減量したい、太りたくない人は、食事摂取量を腹八分目にし、食後に20分程度休憩したら洗い物や片付けなどの活動をすることをおすすめします。いわゆる「運動」をする必要はありませんが、何か活動することでダイエット効果があるからです。

 ちなみに食事をした直後は交感神経が活発になりますが、消化活動に入ると副交感神経が優位になり、脳も身体もリラックスするため眠くなってきます。

 しかし、食事の直後に眠くなるのは「食べすぎている」か「早食いしている」かのいずれかが考えられます。「食後は必ず眠くなる」「横にならずにいられない」人は、ゆっくり食事をして腹八分目でやめてみましょう。そうすれば、食後の睡魔に襲われることはほとんどなくなるでしょう。

 もう1つ、食にまつわる言い伝えの医学的根拠を考えてみましょう。「焦げたものを食べるとがんになる」といわれます。確かに食べ物の焦げには発がん性があります。魚や肉に含まれる動物性タンパク質(正確にはトリプトファンやチロシンといったアミノ酸)が、焼かれることによって発がん性物質を作り出すのは事実です。でもそれは体重60キロの人が毎日1トン(!)食べた場合と考えられます。

 つまり、私たちが当たり前に焦げたものを食べる量で、健康に影響が出ることは、まずあり得ないわけです。また、お米などの炭水化物、野菜や果物の焦げも安心です。

 ◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビではコメンテーターのほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など人気番組の医療監修も数多く務める。著書は「今すぐ『それ』をやめなさい!」(すばる舎)「ダイエットはオーダーメイドしなさい!」(幻冬舎)「ねぎを首に巻くと風邪が治るか?」(角川SSC新書)など。気分転換は週2回のヨガ。