演歌の世界では絵になる「ひとり酒」ですが、1人でお酒を飲む男性は、友人や家族との酒盛りや、社会的交流の意味合いがある宴会が多い男性に比べて、適量の飲酒でも脳卒中のリスクが高くなるという、驚きの研究結果が発表されました。これは、厚労省研究班が行った研究によるものです。

 厚労省研究班は、93年に茨城、新潟、高知、長崎、沖縄の40歳から69歳の男性約1万9000人を10年間追跡調査し、飲酒と循環器疾患の関係を調べました。その結果、約10年の追跡期間に、脳卒中629人、虚血性心疾患207人と、合計836人が循環器疾患を発症したことがわかりました。

 この研究の開始時に、家族や友人などとの社会的な結びつきについてアンケート調査しています。具体的には、(1)心が落ち着き、安心できる人がいるか(2)週1回以上話す友人の数(3)行動や考えに賛成して支持してくれる人がいるか(4)秘密を打ち明けることのできる人がいるか、などを調べて点数化し、社会的な支えが少ない人と多い人に分けて、分析を行ったそうです。この点数が低い人は、仲のいい人が少ない孤独な人=ひとり酒をしやすい人ということになるでしょう。

 結果は、そういう“一匹おおかみ”タイプの人が1日平均ビール大ビン1本(日本酒1合)未満を飲む人であった場合、まったく飲まない人に比べて脳卒中の発症比率が1・2倍高いことがわかりました。2本未満では1・8倍、3本未満では1・9倍の差だったといいます。

 一方、社会的な支えが多い人たち、つまりひとり酒をあまりしない人は、2本未満までは0・7~0・8倍と、飲まない人たちより脳卒中の発症が少ないですが、2本以上になると1・2倍前後に高まったという結果でした。

 飲酒習慣のある人で脳卒中のリスクを低めたい人は、1日平均で日本酒は1合未満、ビールは大ビン1本未満、焼酎は0・6合未満、ワインならグラス2杯未満、ウイスキーならダブル1杯未満にしたほうがいいでしょう。

 せっかく「ひとり酒は体に悪い」という大義名分を得たのですから、こよいは大手を振って? 会話ができる酒場に出掛けてみては?

 ◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビではコメンテーターのほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など人気番組の医療監修も数多く務める。著書は「今すぐ『それ』をやめなさい!」(すばる舎)「ダイエットはオーダーメイドしなさい!」(幻冬舎)「ねぎを首に巻くと風邪が治るか?」(角川SSC新書)など。気分転換は週2回のヨガ。