歯を失う2大要因が歯周病と虫歯であることはご存じかと思いますが、人生100年時代に突入した現代では、第3の喪失理由「歯の破折」(歯が割れること)にも注意をしなければなりません。歯に大きな力が加わることで生じる破折は、大きく分けて外傷などの衝撃力による破折と、通常のかむ力で起きる破折の2種類に分けられます。

 前者は転倒や事故、スポーツなどで過度な衝撃がかかることで起こり、上の前歯が多いのが特徴です。欠けた部分が軽度な場合は部分的な補修で保存が可能なものの、歯根まで亀裂が入った場合は予後が非常に厳しくなります。

 これに対して50歳以上の成人が気を付けたいのは後者です。日々加わっている咬合(こうごう)力(かむ力)で少しずつ亀裂が入ったり、虫歯が進行して欠けたりすることで、歯の抵抗力は失われていきます。奥歯を食いしばった際には自分の体重と同程度の力が加わっているとされ、通常の食事で加わる力(咀嚼=そしゃく=力)はその半分~4分の1程度です。

 明治時代で44歳、戦後の昭和22年ごろで52歳だった日本人の平均寿命はその後飛躍的に伸びています。長く生きている分、必然的に歯を酷使しているわけですから、かみ癖などによっては余計なダメージを与えることになりかねません。口の中に弱っている歯があればチェックし、いたわりながらうまく付き合うことが大切です。硬いナッツや氷をバリバリかじったり、バーベルを持ち上げて食いしばるといった悪習癖は極力避けましょう。

 かぶせ物の中で歯が割れているケースは日常臨床でも頻繁に遭遇するのですが、ご自身で気付きにくく、違和感を覚えた際はすでに手遅れということもあります。衝撃吸収から歯を守るような材質に替えておくなど、早い段階から備えることも歯を守る知恵のひとつです。

 ◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。