前回お話しした骨粗しょう症の治療や、がんの骨転移などに使用する薬剤は、骨が吸収されるのを防ぐ作用を持っています。骨の代謝に関与する破骨細胞(骨を壊す細胞)の働きだけを抑え、骨を丈夫にしようという狙いがあり、開発当初から今日に至るまでさまざまな改良が進み、効き目も高まっています。

広く用いられるようになる一方で、骨吸収抑制薬を服用する患者さんの中に顎骨(あごの骨)が壊死(えし)してしまうという現象が確認されるようになりました。病気の程度によって薬剤の用量が異なるため、発症率にも違いがありますが、低用量で使う骨粗しょう症に比べ、がん治療など高用量の薬剤でリスクが上がると報告されています。

症状は歯肉の痛み、腫れ、歯の脱落などから始まります。歯が抜けた部分に再び歯肉が覆われることなく、骨がそのまま露出することで、強い痛みを感じるようになります。進行した場合、壊死してしまった腐骨の一部を外科的に切除することもあります。

全身の骨に作用させる目的の薬剤であるにもかかわらず、どうして顎骨にだけこういった症状が起きるのか、原因については解明されていないことも多いのですが、理由として挙げられるのが口の中に存在する細菌の影響です。薬剤の作用によって骨の細胞成分が減り、細菌感染に弱くなってしまう環境が発生することで、虫歯や歯周病といったトラブルが悪化しやすくなるのです。また、顎骨は新陳代謝のスピードが速い組織でもあるため、薬剤の成分が沈着しやすいのではないかとも考えられています。

悪化を防ぐために普段から口腔(こうくう)ケアに留意をしていただくことはもちろんですが、服用中の歯科治療については慎重に進める必要があります。日本骨代謝学会など6学会からガイドラインが出ており、それにのっとった歯科治療がスタンダードとされています。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。