うつ病は、「生きづらさ」を抱えて生きてきた人の病である。その治療は専門性にたけている。「なんば・ながたメンタルクリニック」(大阪市中央区)の永田利彦院長は、うつ病に併存する「社交不安症」を例にとり、こう説明する。

「うつ病の治療は、その人の生きづらさの原因が何かを説明することから始まります。社交不安症もそのひとつ。社交不安症があって、2次的にうつ病になっているわけです」

社交不安症は、単に人前が苦手な上がり症というものではなく、遠慮が激しい人たちであり、自己主張ができないことが特徴だ。永田院長によると、脳の中にある「扁桃(へんとう)体」の反応が高い人がいる。反応の高さは薬で抑える一方で、大脳皮質のコントロールについてアドバイスをする。

「薬だけでなく、『大脳皮質が開き直ることも必要ですよ』と話します。どういうことかというと、社交不安症は、みんなの前で何も言えない、ムスッと黙ってしまうからうまくいかないんですよ、それを言いたいことをちょっと言うようにしましょう、そうじゃないとみんなと付き合いにくいですよ、その方がみんなに喜ばれますよ、ということを説明していくのです。こうしたことを心理療法として臨床心理士とやっていく。それは薬を飲むことよりも根気が要るんだということを十分理解してもらう必要があるのです」

自分には言いたいことがあるのに、人にそれを言うと嫌われるかもしれない。そう思っている人が抱えている生きづらさに対して、あえて「言えるように」しようという方法は、時間がかかる。

「心理士によるカウンセリングというと、普通は共感して慰めてもらいに行くみたいなイメージがありますが、そうではありません。心のあり方を変えるという苦しい作業なんだということを分かってもらう必要がある。自分が不安だと思っていることをあえて行うわけですから」

階段を1つ1つ上がるように、心の回復を目指していく。