東京都新宿区にある「新宿OP廣瀬クリニック」では、国内唯一といえるユニークな治療を行っている。それは「キックボクシング」である。「うつが治る食べ方、考え方、すごし方」(CCCメディアハウス)の著者で精神科医の廣瀬久益(ひさよし)理事長が、運動療法の1つとして取り入れたのだった。廣瀬理事長はこう話す。

「現代社会で、『殴る』『蹴る』というのはご法度、封印されたことなのですが、それを開放してやると楽しいだろうという考えからです。社会で抑圧されたものを出すにはもってこいというわけです」

廣瀬理事長によると、ストレスを発散するためには感情をコントロールする力が必要だが、特にそうしたスキルが下手な人では、普通の気分転換程度では不十分で、自然の中に身を置いたり、積極的に体を動かす運動がいいという。一般に運動療法といえば、有酸素運動や筋トレが思いつくが、その効用は肥満解消や運動不足の解消、糖尿病の改善などがほとんどで、心の病に対する効果はあまり知られていない。クリニックには何とボクシングジムさながらの設備があり、プロ仕様のサンドバッグは治療及びリハビリの一環として行われている。プロのライセンスを持つ選任スタッフによる指導を受けられ、うつ病をはじめとする精神疾患に効果がある。

「私自身も健康のためにやっていたが、運動は精神疾患に効果があるという例は、いくつもありました。はじめは、散歩程度だったウオーキングに、そしてキックボクシングになった。本当にさまざまな病気が良くなっていく。薬では治らなかった、何度も自殺を図ったような人が、キックボクシングのおかげで回復したこともあります」

廣瀬理事長によると、人間の4つの基本動作である「歩く、走る、殴る、蹴る」を満たす運動だという。動物から身を守る太古の本能そのものだという。何より「面白い」と感じることが、傷ついた心の回復を助けてくれるのだ。