「うつが治る食べ方、考え方、すごし方」(CCCメディアハウス)の著者で「新宿OP廣瀬クリニック」の廣瀬久益理事長はこう話す。

「うつ病の患者さんではチロシンというアミノ酸の摂取で改善する人がかなりいます」。チロシンはタンパク質の成分のアミノ酸のひとつで、脳内の神経伝達物質であるドーパミン、ノルアドレナリンになる。不足すると気分の落ち込み、憂鬱(ゆううつ)感、意欲の低下を引き起こす。ある患者はうつ状態になって休職。医療機関にかかったが改善せず、退職を余儀なくされた。イライラや不安が強く無気力に陥った。複数の病院にかかったが改善せず来院した。廣瀬理事長がチロシンを服用するよう勧めたところ2、3週間で気力が戻ってきた。

「うつ病ではセロトニンやノルアドレナリンが不足します。抗うつ薬で気分の落ち込みは改善したものの、ドーパミン、ノルアドレナリンを増やすためにその材料となるチロシンが必要でした」

抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、セロトニンを増やして気分を保ち、感情を安定させる効果がある。ただし、セロトニンの生産そのものを増やすのではなく、受容体に取り込まれてしまうことを阻害して増やす仕組みで“不自然”ともとれる。

「アミノ酸の材料を増やすことで自然にノルアドレナリンの生産量を増やす。チロシンのほか、タウリンはカルシウムとマグネシウムのバランスを保ち、神経細胞の活動を円滑にして気分障害の改善に役立つのです」

ほかにもナイアシンという栄養素は、たとえば統合失調症の幻覚症状の改善、思考力、判断力の改善にも役立ち、前向きにさせる。また、タンパク質、ビタミンB群、鉄などが不足するとその欠乏を招き、うつ病にもかかわる可能性がある。サプリメントを併用し多くの改善例があるという。見落とされてきた「栄養」を見直す画期的な知見である。