効率とハイスピードなライフスタイルをもたらした高度な社会システムは、同時に未曽有のストレス時代も引き連れてきた。日本では毎年自殺によって2万人もの命が失われ続け、国連の世界幸福度調査では54位。蓄積したストレスが心身に引き起こす「ストレス性疲労」を抱える人は増加する一方であり、この社会的課題に対するソリューションが早急に求められているのが現状だ。だからこそ今日まで、自らストレスのマネジメントをおこない、自分のペースを保ち続けるための「ストレスオフ」という考え方を提唱し、連載を続けてきた。

▼ご存じの方も多い100年人生の処世術である「ライフ・シフト」の著者リンダ・グラットン氏は、日本のこれまで、そして未来について言及している。日本の持つ財産は、世界最長寿の国の1つであり、かつ高度な教育を受けた人材が多いという点だ。しかし、大きな課題として、諸外国と比べて働く女性の割合が少なく、「社会的生産性」が低いことがあげられる。

勤勉かつ緻密なワークスタイルで成長し、技術・品質において世界を席巻してきた日本だが、技術の流出やインターネットの出現によりその特異性が奪われつつある。伝統に即して熟知を重ねるモノづくりが通じない領域が増え、逆に今求められるのは高い生産性とその継続だ。

▼長寿国であると同時に出生率が低い日本では、少数の若者によって多くの老人が支えられる、という未来図がすでに描かれてしまっている。つまり、その少数の若者のストレスこそが日本の未来のストレスそのものなのだ。若者に負担を偏らせずにできるだけ長く働き、かつ健やかに生きるためには、ストレスオフ社会の実現がキーとなることは間違いない。男性、女性も共に働き、家事や育児を共に担う多様な家族の在り方が生まれていくだろう。だからこそ自分らしいペースを乱さず、適切なストレス量をマネジメントできる心身の力と知識の備えが必要なのだ。この考えにより、疲弊し生産力が低下した日本社会が回復・成長へと導かれ、安定した社会モデルを後継に残すこと。その積み重ねが日本を変え、世界を変え、笑顔の輪で地球をつなげる一助になると信じている。(おわり)