トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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急性前骨髄球性白血病は、急性骨髄性白血病の1つの病型です。このタイプだけ、やや治療法が変わります。急性前骨髄球性白血病の白血病細胞(芽球=がきゅう)は前骨髄球型と呼ばれ、成熟した白血球の一種である好中球に近く、機能的な顆粒(かりゅう=消化酵素、炎症性物質)を持った状態です。染色体変異でいうと、第15番染色体と第17番染色体の各一部が切れ、互いに入れ替わる「15:17転座」によるPML-RARαキメラ遺伝子(白血病の原因)がほぼ検出されます。

顕微鏡で見て、毒々しいピンク色の棒状物体を多く持った芽球が認められます。その成熟傾向のある細胞が制御できない増加や崩壊を起こすため、炎症性物質が多量に放出され、播種(はしゅ)性血管内凝固障害(DIC)という、血が固まりにくい病態が起きます。多くの患者さんは出血症状(吐下血や鼻出血)で発症されます。ただでさえ貧血で血が固まりにくく出血しているとなると、多量の輸血を要し、白血病の治療どころではなくなってしまうこともあります。かつては最も治療が難しい白血病の代表でした。

例えてみれば、中学生がいかつい格好をして無免許でバイクを乗り回し、取り締まりができず、事故が多発しているようなものです。

原因となる遺伝子RARαはレチノイン酸(ビタミンA)受容体ですので、活性型ビタミンAを使うと、白血病細胞が分化誘導されて制御できることが、明らかになりました。荒れた中学生たちも、生活指導したら普通? の高校生になるみたいなものです。亜ヒ酸も効果があることがわかりました。現在は再発例を中心に使われています。

合併するDICも遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤により、かなり制御されるようになり、今では急性白血病の中では予後良好の一型とされています。

ただし、最初の大変さは変わりません。いかに速やかに診断し、治療に入れるか、が重要です。このタイプの患者さんが来たら、「即入院かつ絶対安静」です。とにかく最初の対応が重要なのです。

イタリアやスペインの試験では、活性型ビタミンAに併用する抗がん剤の種類を減らして対処しております。わたしもこの方法に賛成です。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。