嗅覚は、慣れからにおいを感知しなくなることがよくあります。ペットを飼っていると、そのにおいが分からなくなりますが、お客さんが来たらすぐ分かります。同じように「自分がにおうかどうか」は、自分では分かりません。そこで、他人にかいでもらうことが一番だといわれます。

自分で確かめたいならば、朝起きてすぐに枕カバーをポリ袋に詰め込み、いったん新鮮な空気を吸ってからかいでみる方法があります。それだけ、においは、自分には分かりづらく、他人には影響を及ぼすもののようです。

イタリア・トリエステにある先進研究機関の神経科学者、バレンティーナ・パルマ博士の実験が、興味深い。「患者の体臭で歯科医のミスが増えるか?」という仮説にのっとって実施したもの。

24人の歯科学生に参加してもらい、各自から2枚ずつ着用済みのTシャツを提供させました。1枚は難しい試験のときに着ていたもの、もう1枚は通常の授業中に着ていたものです。

その後、別の歯科学生24人に、これらのTシャツを着たマネキンを用いて歯の治療実習を行わせ、そのパフォーマンスを教官が評価する流れでした。その結果、試験中に着ていたTシャツのマネキンを治療したときのほうが、治療の出来が悪くなることが分かったというのです。

患者のストレスやプレッシャーをかぎ取った医師は、よりミスしやすくなり、治療結果にも表れることが証明されたわけです。同博士は「体臭に隠された化学信号は、我々の感情を表出させ、周囲の人々の行動にも影響を及ぼすことが発見できた」と話しています。

人間は、ナーバスになっているときやプレッシャーを感じると、濃度の濃いネバネバ汗が出やすく、これが「冷や汗」になってにおうのです。

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務め、今年10月に新シリーズを迎える。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。