近年、さまざまな歯周病の全身への関与がわかってきました。骨粗しょう症もその限りではありません。

これは、全身の骨強度が低下し、骨がもろくなって骨折しやすくなる病気で、日本では約1000万人以上いると言われています。そして、その約90%が女性です。骨粗しょう症の中でも閉経後の骨粗しょう症は、閉経による卵巣機能の低下により、骨代謝にかかわるホルモンのエストロゲン分泌の低下により発症します。

エストロゲンの分泌が少なくなると、全身の骨がもろくなるとともに、歯を支える歯槽骨ももろくなります。また、歯周ポケット内では、炎症を引き起こす物質が作られ、歯周炎の進行が加速されると考えられています。したがって、閉経後の女性は、たとえ歯周炎がなくても、エストロゲンの減少により、歯周病にかかりやすく、広がりやすい状態にあると言えます。

また、歯周病はメタボリック症候群にも関連しています。これは、ウエスト周囲径(内臓脂肪の蓄積)が、男性85センチ、女性90センチ以上を基盤として、高血圧、高血糖、脂質異常症の3項目のうち2つ以上に異常が見られる病態です。

詳しくは解明されていませんが、歯周病の病巣から放出される毒素や因子は脂肪組織や肝臓のインスリン抵抗性を増加させ、血糖値を上昇させます。また、重度歯周病患者では「血中CRP(タンパク質の一種)値」が上昇し、動脈硬化や心筋梗塞発症のリスク亢進(こうしん)と密接に関与すると考えられてるのです。

ほかでは、誤嚥(ごえん)性肺炎と関係があります。これは、食べ物や異物を誤って気管や肺に飲み込んでしまうことで発症する肺炎。高齢になるとよく発症します。その原因となる細菌の多くは、歯周病菌であると言われており、口の中の細菌が気管や肺に入り込むことで生じると考えられています。誤嚥性肺炎の予防には、歯周病のコントロールが重要になります。

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務め、今年10月に新シリーズを迎える。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。