前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺の障がいであらわれる代表的な症状が、尿のトラブルです。日常的にあまり意識することのない臓器の前立腺ですが、いざ病気になると生活の質に影響が出てきます。

前立腺が細菌に感染することで炎症を起こす「前立腺炎」に患わされる人も、少なくありません。また、50歳代になると、男性の多くが「尿が出にくい」「トイレが近い」といった症状を訴えることが多くなります。

排尿にまつわるトラブルは大別して排尿時のトラブルである「排尿症状」と、尿をためている間の「蓄尿(ちくにょう)症状」に分けられます。前者は「尿が出にくい」「尿が勢いよく出ない」「尿意があるのに尿が出ない」などであるのに対し、後者は「頻繁に尿意を感じる(頻尿)」「就寝時にも尿意を感じる(夜間頻尿)」「トイレに間に合わない(尿もれ)」などです。ほかにも、「排尿後も尿意を感じる(残尿感)」「終わったつもりなのに尿が出た(尿もれ)」といった症状もあります。

排尿にまつわるトラブルは、ほとんどが前立腺肥大症を原因とするものです。前立腺は生殖器で正常な大きさなら、日常の排尿、蓄尿システムにはほとんど関与しません。ところが、中年を過ぎるとかなりの割合で前立腺が肥大する人が出てきます。このうち肥大がすすみ、排尿に障がいが出るようになると前立腺肥大症という病気になるのです。

前立腺肥大症では、大きくなった前立腺が、中央部を通る尿道を四方から物理的に圧迫し、閉塞(へいそく)による排尿障がいが起きます。「尿が出にくい」「排尿に時間がかかる」「尿がしたいのに出なくなる」などの症状がそれです。この影響が膀胱(ぼうこう)にも及び、頻尿、尿意切迫(急な、我慢できないような強い尿意)、尿失禁(おしっこもれ)などの症状もあらわれます。

また、進行した「前立腺がん」が、排尿トラブルの原因であるケースもあります。前立腺がんは、早期には自覚症状がほとんどないため、尿トラブルがないからといって決して安心できるものではないのです。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。