前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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ここでは、前立腺肥大症の症状を見ていきましょう。この病気は命にかかわるものではありませんが、肥大の進行とともにさまざまな尿トラブルがあらわれるようになると、日常生活で不便やストレスを感じるようになります。

前立腺肥大症の代表的な症状が「頻尿」です。文字通り、尿意を頻繁にもよおすようになり、トイレに行く回数が異常に増えてしまう状態をいいます。

一般的に成人男性の尿量は、1日に1500~2000ミリリットル(1ミリリットル=1リットルの1000分の1)。膀胱(ぼうこう)の容量は個人差はあるものの、250~450ミリリットルほどです。膀胱にある程度尿がたまると尿意を感じて排出するため、1日に5~6回排尿します。これが、8回以上になると頻尿とされます。また、夜間に何度もトイレに起きる「夜間頻尿」では、睡眠障がいにつながるなど生活への影響も大きくなります。

前立腺肥大症で頻尿が起きるのは、肥大した前立腺が尿道や膀胱を圧迫するために、その刺激が尿意となってしまうのです。また膀胱が圧迫されることで、膀胱の容量が減ってしまい、尿をためていられなくなることも原因です。

患者さんを悩ませるもう1つの症状が「排尿困難」です。尿意を感じてもトイレにいくとスムーズに排尿できない。排尿しても勢いが弱かったり、途中で途切れたりとすっきりしません。排尿困難の原因には2つあります。

まず、肥大した前立腺により、尿道が圧迫され、狭められることでうまく排尿できなくなるのです。健康な人ならトイレで「出そう」として2、3秒で尿が出ますが、排尿困難の人では10秒以上、症状の強い場合は数十秒かかることも。

次に、肥大した前立腺の物理的な刺激で周辺の筋肉が緊張。自律神経が正常に働かなくなることです。膀胱に尿をため、必要に応じて体外に出すメカニズムには自律神経がかかわっているのですが、前立腺肥大症になると、この一連の働きがうまくいかず、尿をスムーズに出せなくなってしまうのです。

ほかにも、トイレに行った後も尿が残っている感じがする「残尿感」や、トイレに行くのが間に合わず漏らしてしまう「尿失禁(尿漏れ)」など、前立腺の肥大により膀胱頸部(けいぶ)が圧迫されることで筋肉のコントロールがうまくいかずに、排尿トラブルが起きることもあります。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。