前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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手術療法に続き、ここでは「放射線療法」を見ていきましょう。放射線には各種ありますが、どれもがん細胞のDNAを断片化する働きがあります。放射線療法はこの原理を応用して、前立腺がんに、エックス線やガンマ線などを照射して、がん細胞を死滅、あるいは減少させるのです。この療法には大別すると「外照射法」と「組織内照射法」があります。

外照射では、エックス線は体外の放射線発生装置(リニアック)から、前立腺の中にのみ発生している「限局がん」に対して照射され、前立腺と精嚢(のう)に行われます。手術療法と同程度の効果があり、根治が期待できます。ただ、治療に1~2カ月かかるのと、膀胱(ぼうこう)や直腸などの前立腺周囲の臓器への影響があり得ます。これを解決するため、3次元CT(コンピューター断層法)でより正確に狙い、複数方向から照射する「3D-CRT(3次元原体照射療法)」や、複数方向から強弱をつけたエックス線を照射する「IMRT(強度変調放射線照射療法)」などが使われます。治療効果の点からも、これらの新しい方法を選択するのが主流となっています。

内照射法では前立腺の中に小さい線源(放射線発生シード)を挿入し、そこから放射線を照射してがん細胞を殺します。内照射法の利点は前立腺のみを狙って照射できることと、性機能障がいが起きにくいことです。この療法の対象となるのは、低~中リスクのがんの場合です。

また、医療に使われる放射線に、エックス線やガンマ線のほかに、電子より重い粒子を使う「重粒子線療法」があります。これは、粒子線といって、目では見えないほどの小さな粒を光の速度の60~80%程度まで加速したものを照射して、がん細胞を死滅させる療法です。水素イオンを使うのが「陽子線療法」なのに対し、重粒子線は、炭素イオンを使います。利点は、がん細胞を狙う深さを定められることから、がん細胞の手前にある組織を傷つけないことです。しかし、先進医療から現在は保険診療になりましたが、治療を受けられる施設が限られています。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。