前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺の手術後に、「トイレまで間に合わない」とか「おなかに力を入れたとき尿が漏れる」といった尿失禁の症状を訴える人が、多くいます。手術で前立腺に近い尿道括約筋が傷ついたり、手術後に尿道が炎症を起こしたことによる合併症です。

尿失禁を減らすための方法ですが、まずは尿吸収パッドや尿失禁用パンツなどを活用することで、日常生活での不便を解消しましょう。また、「骨盤底筋体操」や「膀胱(ぼうこう)訓練」を行うことで、回復を早めることもできます。骨盤底筋というのは、尿道括約筋や肛門括約筋など骨盤の底部にある筋肉群のこと。ここを鍛えるには、骨盤底筋体操というものがあります。

たとえば、椅子に座った状態で、おならや排尿を我慢するときの感覚を思い出して、股間、肛門周囲の筋肉をキュッと締めます。これを5秒キープしたら力を抜いて筋肉を緩めます。これを10回繰り返すのです。続いて、筋肉を素早く締めて緩める動作を10回繰り返します。これらを1日に数回行います。この体操は椅子に座っただけでなく、あおむけでも、あぐらをかいた状態でも行うことができます。

膀胱訓練は、排尿を我慢する訓練のこと。これにより、尿意を感じてからトイレに行くのが間に合わず、失禁する「切迫性尿失禁」を改善できます。方法は、尿意を感じてから、尿道括約筋をギュッと締めてあえて数分トイレに行くのを我慢した後に、排尿するものです。排尿を我慢することで膀胱を拡張し、尿をためる機能を回復させます。

前立腺の病気に関する治療を受けたら、日常生活の中で再発を予防することが必要です。適度な運動も大事ですが、前立腺全摘の手術を受けたときは痛みがなくなっても暫時、激しい運動は避けたほうがいいでしょう。そこで気軽にスタートでき、体への負担が軽いウオーキングがお勧めです。さらに、よい睡眠を取ること。病気の治療の影響で就寝後に何度も尿意をもよおすことで目を覚まし、熟睡できなくなるケースがよくあります。就寝3時間前から水分摂取を控えるなど、睡眠を改善する必要があります。ほかにも、薬の服用が排尿トラブルにつながるケースもあるため、必ず主治医、薬剤師に相談しましょう。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。