前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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ED(勃起障がい)第1の治療法は、「薬物療法」です。日本で使用可能なのは、バイアグラ、レビトラ、シアリスの3剤です。

バイアグラは1999年(平11)日本で初の勃起不全治療薬として発売され、今でも「定番」となっています。3000人以上に、12週にわたる試験期間を設けた調査によると、「この治療によりあなたの勃起は改善しましたか?」という設問に、「はい」と答えた人が「76%」だったといいます。

バイアグラは、食後1時間以降に服用すれば、30~60分で効果を発揮します。錠剤と口腔(こうくう)内崩壊フィルム製剤があり、錠剤は価格の安いジェネリック製剤があります。作用する時間は4時間。副作用に関しても、発売当初より心配は少なくなりました。ただ、心臓に重篤な病気があり、ニトログリセリンを服用しているときは飲んではいけません。

また、レビトラは04年に発売。最大の特徴は効き目が早く、食事の影響が少なく服用から30分で効果があることです。容量は10ミリグラムと20ミリグラムの2種類あります。副作用もほてりや頭痛、鼻炎などで重篤なものはありません。

3つ目のシアリスは07年からの発売で、一般名は「タダラフィル」といいます。このタダラフィルを、EDの患者さんに出すときの薬の名前が、シアリスです。一方、このタダラフィルを前立腺肥大症の患者さんに出すときの薬名は「ザルティア」となります。同じ薬ですが、名前と用量が異なるのです。

EDのときのシアリスは10ミリグラムか20ミリグラムを、「ここぞ!」というときに服用します。30分後から効果があらわれ、36時間持続します。また、前立腺肥大症のときのザルティアは毎日5ミリグラムずつを服用します。半減期が17・5時間と長いため、2~3日は効いています。ただ、患者さんが「前立腺肥大症の症状があります」と言うだけでは、この薬は出せません。前立腺の大きさや残尿量をエコー検査で測り、おしっこの勢いを調べるなど客観的な検査による診断が必要です。

また、前回述べたように、前立腺がんの神経温存手術がなされた場合でも、バイアグラなどのサポートが必要なときもあります。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。