北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟氏が、「ウィズコロナ時代」のロカボ(緩やかな糖質制限)について解説します。ロカボの語源は「Low(低い) Carbohydrate(炭水化物などの糖質)」。新型コロナウイルスとの共生で新しい生活様式が求められる中、食事に気を付けながら、毎日楽しく食べて健康になりましょうと、勧めています。

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1921年にインスリンが発見されるまで、糖尿病は糖質制限が当たり前でした。インスリンの発見後、糖尿病の人もインスリンを打てば糖質を食べてもいいと次第に変わり、逆に糖質制限は脂質をいっぱい取るため、動脈硬化症を起こしやすい(実は誤解だったのですが)危険な食事法とみなされるようになりました。

糖質制限をリバイバルさせたのは、ダイエットの世界ではロバート・アトキンス(1930~2003年)、糖尿病の世界ではリチャード・バーンスタイン(1934年~)です。肥満が問題となっていた1972年に「Dr.アトキンス・ダイエット・レボリューション」を出版したアトキンスは、肥満を引き起こすのは炭水化物で、炭水化物を制限する代わりにタンパク質と脂肪が豊富な食べ物は自由に食べて構わないと主張しました。本は1500万部の大ベストセラーになりましたが、無作為比較試験をしていないため、単なる経験論、チャンピオンデータ(都合のいい成功例)の集積と、他の医師からは徹底的にたたかれました。

バーンスタインは12歳のときに1型糖尿病と診断され、医師になって自分の体を実験台に血糖をコントロールする方法を模索した人です。1時間に1回、血糖を測るというすごい人で、糖質制限が一番であると気付き、97年、「糖尿病の解決」を書きました。

バーンスタインは朝6グラム、昼12グラム、夜12グラムという厳しい糖質制限を50年近く続け、80代後半になった今も元気です。血糖の改善で糖質制限が最も有効性が高いと米国糖尿病学会が食事療法のガイドラインを改定したのは2019年です。1世紀かけて糖質制限に戻ったのです。