感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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2月に入ると、ついに国内感染が明らかになりました。水上宴会施設の従業員及び利用者の感染連鎖です。

明らかにされている情報によると、1月15日ごろに中国からの観光客が施設を利用し、同18日に旅客運輸業者の新年会で施設を利用。その後会合に参加していない旅客業会社事務員、社員家族、社員家族の実家、参加家族の病院職員から同僚職員、その職員家族、職員家族の同僚まで、連鎖関係が見られました。

誤解されがちですが、水上宴会施設直接の利用者からの感染は数人です。あとは連鎖的発生です。まるで施設が原因になったような印象を世間に与えてしまいました。

この感染連鎖反応は、このウイルスの特徴を非常に強く表しています。多くの感染者は3日ごとに伝搬され、しかもごく短時間の接触で、です。ウイルスに暴露されてから上気道炎症状が出るのは5~7日後ですので、どうやら暴露3日目ごろ症状が出て、1~2日前あたりに非常に強くウイルスを拡散させている、と推測されます。

実は季節性コロナウイルスも同じように発症前に拡散していると、1990年頃に実証されています。未発症の感染者を制御することは難しいうえに、感染を証明するPCR検査には時間がかかり、なおかつ隔離以外に有効な手だてはない状況です。今回のコロナウイルスの感染制御は、困難を極めると判断されました。

報道されたのは2月の半ばで、その前のチャーター便などに関心が集中していましたが、1月下旬にはとっくに国内感染が発生していたというのが、衝撃の事実です。たとえてみれば、城門の前に兵士を配置して敵に備えていましたが、とっくに敵は城内に侵入していた-ということです。

そういえば、2月初めから武漢及び中国には関係ありませんが、微熱と咳(せき)が出るという人は、外来にかなりいたようです。中には肺に影がある人もいましたが、PCR検査対象外にされたといいます。

都内の診療所の医師も陽性となり、「自分も安全でとはいえない」と感じながら黙々とマスクをして、診療継続するほかありませんでした。