感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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何人かの開業医の先生にお話をうかがうチャンスがあり、その時に話題になったことがあります。

「ここ2年ほど、比較的若い患者さんで、発熱と肺炎の『影』はあるものの、採血結果では炎症値は軽くそれほど重篤感がない患者さんが結構いた」

「各種検査をしても陽性結果がなく、マイコプラズマ(細菌が引き起こす風邪症候群に似た症状)かな? と思ってマクロライド系抗菌薬かキノロン系抗菌薬を出していると、翌週にはすっかり良くなっていた」

「あれ、今のコロナとすごく似ているんですが…」

まあそう言われるとそうだったかもしれませんし、自分もそんな患者さんを診たような気がします。ただ過去の電子カルテから探しだすのは大変で、途中でやめました。それに当時の採血も唾液も何も残っていません。PCRでしか確認できない病原体は、そのときしか確認しようがなかったのです。

ウイルスは人口密度に強く感染性を発揮します。東京はその通勤圏を含め、世界最大の過密地帯です。本来は最もウイルスに弱い街なのに、死者が少ないのはいろいろ不思議です。

今回の「SARS-CoV2」に遺伝子配列的に近いのが、中国・浙江省のコウモリから2016年に検出された「Bat-SARS-likeCoV」です。浙江省は上海市の隣です。遺伝子変異の系統樹でいくと、「いとこ」あたりに前回の「SARS-CoV」がいます。

もはや小説のネタレベルの話ですが、「SARS-CoV」の仲間が脈々とコウモリなどで引き継がれ、時折人へ伝搬を繰り返していたのかもしれません。上海までたどり着けば、東京などへはすぐに広がるでしょう。勝手なネーミングですが、「SARS-CoV1.6」とか「~1.8」が上海から中国各地へ、そして東京を始めアジア各国へ広がっていたのかもしれません。

中国との交流が多い国・地域は既にこの「SARS-CoV1.X」にさらされていたのではないでしょうか。日本で、新型コロナの抗体のパターンが欧米各国の初感染パターンと異なる理由としてはしっくり来る気がしますが、残念ながら私には確認するすべはありません。