「うつ病」と間違えられやすい「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」は、一般的に“男性更年期障害”として知られています。これは、男性ホルモン(テストステロン)の急激な低下が原因で起こるのです。その患者さんのケースを紹介しましょう。

50代のA男さんは石油を扱う商社マンで、中東に出張で出かけることが多く、精力的に仕事をし、趣味のゴルフも毎週のように行っていました。ところが、コロナ禍になって外に出ると感染するという不安からリモートワークが中心に。人に会えないことから活力がなくなり、ゴルフにも行けなくなったのです。

そこで、精神科を受診すると、抗うつ剤を服用することに。飲み忘れることなくきちっと服用したのですが、症状が改善する気配すら感じられませんでした。それどころか、夜のトイレの回数が増え、泌尿器科も受診。でも、うつ病も頻尿も改善をみません。

そこで、Aさんは私の診療科を受診されたのです。私は問診後、LOH症候群を疑い、テストステロンの検査を行いました。結果、Aさんのテストステロンの数値は非常に低かった。それで「テストステロン補充療法」を実施。2週間おきにテストステロンを筋肉注射しました。次第に症状は良くなり、ゴルフにも出かけることができるように-。

半年後には注射は1カ月に1回になり、10カ月後にはテストステロン補充療法をやめても、元気に仕事ができるように回復したのです。もちろん、頻尿も改善しました。やはり、頻尿もテストステロンの低下が症状を悪化させる原因になっていると思います。テストステロンは男性の“元気の源”なのです。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆井手久満(いで・ひさみつ) 1991年宮崎大学医学部卒業。国立がんセンター、UCLAハワードヒューズ研究所、帝京大学等を経て、20年4月から独協医科大学埼玉医療センター教授、低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢学会理事等。前立腺がん予防や男性ホルモンが研究テーマ。今年9月18~19日、日本メンズヘルス医学会を会長として開催する。