男性ホルモン(テストステロン)の値が低い男性が前立腺がんを発症すると、悪性度の高い前立腺がんであることが多い。逆に、テストステロンの高い人は前立腺がんを発症しても悪性度が低く、悪性度を見る評価の「グリーソン・スコア」が7以下の人が多いのです。

実際に「無治療で様子をみましょう」、と診断される前立腺がん患者さんは高齢者に多い。75歳を超えていると期待余命がそれほど長くないので、患者さん自身も経過観察を選択しやすいのです。50歳、60歳で前立腺がんを発症したという患者さんは、悪性度の低い前立腺がんであっても、何年か経過観察した後に、どこかで治療介入はされています。75歳以上であれば、前立腺がんと付き合って天寿をまっとうすることは十分にできます。

前立腺がんとうまく付き合うには、悪性度の高い低いにかかわらず、早期に発見することが重要になります。それには、50歳を超えたら前立腺がん患者が増加し始めるので、50歳からPSA検査を受けましょう。PSA検査は、前立腺から血液中に漏れ出した、前立腺でつくられるたんぱく質の一種であるPSAを採血して調べる検査です。

その基準値は、50~64歳は3・0ng/mL以下、65~69歳は3・5ng/mL以下、70歳以上は4・0ng/mL以下です。この数値を超えると前立腺がんを疑がって、精密検査が行われます。

ただ、前立腺がんも遺伝的要因が関わっていて、前立腺がんの人の約25%に家族歴があることがわかっています。父親が前立腺がんの場合、そうでない人に比べて2・12倍がんになるリスクが高くなり、兄弟の場合は、2・87倍です。このような家族歴のある人は、30代、40代であっても、一度PSA検査を受けることをお勧めします。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆井手久満(いで・ひさみつ) 1991年宮崎大学医学部卒業。国立がんセンター、UCLAハワードヒューズ研究所、帝京大学等を経て、20年4月から独協医科大学埼玉医療センター教授、低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢学会理事等。前立腺がん予防や男性ホルモンが研究テーマ。今年9月18~19日、日本メンズヘルス医学会を会長として開催する。