連載の20回、21回は「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」の薬物療法である男性ホルモンの「テストステロン補充療法」と「漢方薬併用療法」について紹介しました。

この中のテストステロン補充療法については、まだ強壮剤とか精力剤とかと誤解されている点が少なからずあります。また、スポーツ界で問題になっているように、テストステロンの注射には副作用も指摘されているのですが…。それらの点について、誤解のないようにしておきたいと思います。

まず、強壮剤とか精力剤の誤解については、EDの治療薬と狭く考えるケースがまだあるようです。テストステロン補充療法でEDが改善する効果は、テストステロン補充療法の一部の効果にすぎません。

スポーツ界での問題は、少し前にメジャーリーガーたちが行っていて問題になったことです。彼らは筋力増強、集中力のアップを目的としてテストステロンを注射していました。ただ、その量が普通の量ではなかったのです。

テストステロンを大量に、それも長期間補充すると副作用は出ます。「薬(クスリ)」は逆に読むと「リスク」。そのリスクは、「精巣の萎縮」や「肝機能障害」などを発症する点です。

このような副作用がLOH症候群の治療でも生じるのかというと、それはありません。LOH症候群の治療では、注射する量を上手にさじ加減します。そして、注射の期間も1年くらいで終了することが多いのです。

だから、ホルモン補充療法は100%安全に治療ができ、大きな効果が期待できます。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆井手久満(いで・ひさみつ) 1991年宮崎大学医学部卒業。国立がんセンター、UCLAハワードヒューズ研究所、帝京大学等を経て、20年4月から独協医科大学埼玉医療センター教授、低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢学会理事等。前立腺がん予防や男性ホルモンが研究テーマ。今年9月18~19日、日本メンズヘルス医学会を会長として開催する。