歯を失う要素の中に「悪習癖」、すなわち歯にとって好ましくない習慣というものがあります。専門用語で「睡眠時ブラキシズム」と呼ばれる「夜間の歯ぎしり」もそのひとつです。

睡眠時ブラキシズムは日中に経験したストレスの影響を受けて変化するという報告があるため、歯科でも患者さんの生活全般に耳を傾けながら口を診ていく必要があります。行動療法としては、ストレス緩和に役立つ「幸せホルモン」セロトニン分泌を高める生活習慣を紹介しています。

セロトニンは太陽の光で活性化されるため、起床時に十分な日光を浴びることを毎朝の習慣にすること。そして日中も、なるべく陽が差し込む環境を保つと効果的です。また、セロトニンを原料として約15時間後に「睡眠ホルモン」であるメラトニンが作られるため、セロトニン不足は入眠にも影響します。

寝つきの悪さは、カフェインやアルコールといった嗜好(しこう)品の過剰摂取や喫煙と同様、睡眠時ブラキシズムのリスクファクターとなるのです。さらに、セロトニンは貯蔵することができないホルモンであるため、こうした習慣は毎日のルーティンとして継続しましょう。

セロトニン研究の第一人者である東邦大学の有田秀穂名誉教授の文献には、ガムをかむといった咀嚼(そしゃく)に加え、呼吸や歩行といったリズム運動がセロトニン神経の活性化に効果的と記されています。

私の頭に即座に浮かんだのは、幼少期に苦痛だった夏休みのラジオ体操の記憶でした。だらけがちな長期休みの早朝、日光を浴びながら全身を使ったリズム運動を行い、毎日欠かさずスタンプを押してもらう。約90年の歴史を持つと言われるあの体操は、私たちの身体から自然とストレスを遠ざける、大変理にかなった運動だったのですね。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)日本大学歯学部卒。同大学大学院歯学研究科を経て東京医科歯科大学歯学部付属病院勤務。テレビやラジオでのわかりやすい解説が評判となり、雑誌のコラムや日刊スポーツでの連載を担当。文筆家としての活動も積極的に行う。現在は東京医科歯科大学非常勤講師、日本アンチエイジング歯科学会理事、複数の歯科クリニックで診療。