皆さんが毎日欠かさずに行っている歯磨き習慣は、口腔(こうくう)機能を保つ訓練にもなっていることをご存じでしょうか。歯ブラシを小刻みに動かす、舌をマッサージする、歯間ブラシやフロスを使って食べかすを取り除くことは、歯や歯茎に刺激を与えて唾液の分泌を促します。

歯の裏側を磨く際に唇をきゅっとすぼめて磨くだけでも、口を閉じる筋肉が強化される上に、何かと気になる飛沫(ひまつ)の問題も改善されます。さらに、その後に行う「うがい」を利用した口腔周囲筋を鍛える効果も侮れません。

私は普段、大学病院の外来で口腔がんや外傷などが原因で口の機能が低下した患者さんのリハビリ治療をお手伝いしています。手術痕によりうまく口を閉じられないケースでは、水圧を使って洗い流す作用が期待できないことや、ブラッシングで剥がされた表面の汚れを口の外に吐き出せない点がセルフケアの関門になります。

ベテランの患者さんになると経験値からさまざまな検証をされており、自分の口のサイズに合った特殊なツールを数種類駆使し、30分かけて隅々まできれいに磨くという方もいらっしゃいます。

こうした患者さんの努力から歯科医師である私が学ぶことは無限大で、その中で感じたひとつが「うがいの健康効果」です。毎日何げなく行っているうがいは、口唇やほおだけでなく、舌の筋肉も総動員して行う非常に複雑な運動です。ブクブクうがいは口周り、のどを洗うガラガラうがいは咽頭周囲の筋トレになるので、セットで行うとさらに効果的です。

また、間食や甘い飲み物をとった時にこまめに水でゆすぐ習慣を心がけると、汚れ自体が口の中に残りづらくなります。強く速くしっかりゆすいだ後、水を吐き出す際には周囲に飛び散らない配慮をお忘れなく。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)日本大学歯学部卒。同大学大学院歯学研究科を経て東京医科歯科大学歯学部付属病院勤務。テレビやラジオでのわかりやすい解説が評判となり、雑誌のコラムや日刊スポーツでの連載を担当。文筆家としての活動も積極的に行う。現在は東京医科歯科大学非常勤講師、日本アンチエイジング歯科学会理事、複数の歯科クリニックで診療。