新型コロナウイルスとの共存も1年以上におよび、新しい知見が次々と報告されるようになりました。肺やのどの細胞にウイルスが感染し、せきやたん、呼吸困難といった肺炎症状が重症化することは広く知られています。

感染者に出現するその他の兆候として、味覚の消失や口の渇き、粘膜病変などが認められており、当初から口の環境は何らかの鍵を握ると想定されていましたが、今年3月に米ノースカロライナ大学等の研究チームにより発表された論文によって、口の細胞にもウイルスが直接感染することが明らかになりました。

この研究によると、唾液中のウイルス量は、味覚消失といった新型コロナの感染症状と相関が認められることや、無症状感染者の唾液からも長期間にわたってウイルスが検出される例があったと記されています。

つまり、気づかないうちに口の細胞にウイルスが感染し、その唾液を飲み込むことで呼吸器へのウイルス侵入や、唾液の飛沫(ひまつ)から他者への感染が起きることがあるということです。口腔(こうくう)が新型コロナウイルス感染に対する重要な部位であり、唾液が伝播(でんぱ)経路になる可能性がはっきりと示されたわけですが、私たちが日常生活を送る上で、実際に気をつけたい具体策を考えなければなりません。ここに興味深いデータがあります。

6月10日の参議院厚生労働委員会で山田宏議員からの質疑応答を抜粋した議事録によると、6月9日までに日本全国で発生したクラスターは8231件、そのうち医療機関は1225件、高齢者福祉施設では1680件であるのに対し、歯科ではたった1件しか確認されていないとのこと。歯科医院で普段から講じられている感染予防対策が、何らかのヒントになると考えられているのは、こうした数字が根拠となっています。