大阪府の吉村知事が今年1月に「コロナウイルスは口の中、唾液に多く含まれている。なのでマスクが有効だし、飲食の場も指摘される。一方で利用者側がマスクができない環境に歯科医院がある。大阪には5500もの歯科医院があるが、クラスター発生はゼロ。感染対策のたまものと思うが、何かある。何か? 専門家には、ぜひ分析してもらいたい」とツイートしました。これ以降、歯科での感染予防策についての質問、取材を受ける機会が増えました。

医療の現場においての一般的な感染対策は、標準予防策(スタンダード・プリコーション)という考え方を軸にしています。「すべての血液・体液・分泌物・損傷皮膚・粘膜等は感染性病原体を含む可能性があるという認識で取り扱う」ことが原則であり、呼吸器衛生およびせきエチケットとしてのマスク装着や、管理された洗浄剤と流水による手洗いを基本とする手指衛生もこれに当てはまります。親指の付け根や手の甲、手首などは汚れが残りやすい箇所であるため、特に意識して洗うようにしましょう。

歯科独自の感染予防対策としては、消毒薬を使用した治療前含嗽(がんそう=うがい)があります。口の中の微生物レベルを下げることが飛沫感染対策として非常に有効な手段であるとともに、室内環境を衛生的に保つ最も簡便な方法だからです。

私が勤務する大学病院では「ガラガラうがいではなく、ブクブクうがいをしてください」というイラスト入りの掲示物が診療室に貼ってあります。家庭内や飲食の場での感染リスクが叫ばれて久しい今日この頃ですが、こうした医療機関での工夫を知ってもらい、生活者の皆さんが日常に効率よく取り入れることで、違った世界が見えてくるのではないかと願っています。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)日本大学歯学部卒。同大学大学院歯学研究科を経て東京医科歯科大学歯学部付属病院勤務。テレビやラジオでのわかりやすい解説が評判となり、雑誌のコラムや日刊スポーツでの連載を担当。文筆家としての活動も積極的に行う。現在は東京医科歯科大学非常勤講師、日本アンチエイジング歯科学会理事、複数の歯科クリニックで診療。